工務店の性能向上リノベーションの事業化を支援しているコダリノ研究所(神奈川県横浜市)代表の稲葉元一朗さんによる、DIGITAL連載「現場で役立つリノベの勘所」。第2回目は、マーケティング戦略のあり方について考えます。(新建ハウジングDIGITAL編集部)
前回はリノベーション事業に本格参入する上で持っておくべき心構えについて述べました。今回はリノベーションの集客について、どのように考えて、どうやって見込客を集めるのかについて解説していきます。集客に関しては、テクニック論に陥りがちですが、まず大切なのは「自社がリノベーションを通じて、暮らしや地域をどう良くしていきたいのか」を考えることです。重要なのが3つの問いです。
- ・創業当時から貫く理念、受け継がれてきたDNA、その結果として蓄積されてきた強みは何なのか
- ・独自固有の強みを活かせるリノベーションの領域はどこなのか
- ・その領域において自社にとって象徴的なお客様像はどのような方で、自社の提供価値によって何が実現されるか
リフォーム業界というレッドオーシャンの中で市場ニーズや強みなど複眼的な視点で自社のテリトリーをつくり、その中で同じような価値観を持つ顧客から共感や支持を集めるという考え方です。そして、工務店が取り組むリノベーションという観点で、プライスレスとも言える「家を全て壊すのではなく、なんとか残したい」という「実家リノベ」のニーズを持った顧客像がコアターゲットの有力候補の一つとなります(中古リノベの客層より、性能向上の追求が価格的にマッチしやすい傾向)。
自社の価値観や提供価値にフィットする顧客の最大化の先に、リノベーション事業の成長があり、この一連の精度を高めることがマーケティングの役割であると言えます。
上記3点を踏まえた上で、「紙媒体→WEB→店舗」という代表的な顧客接点で一貫性、整合性を持たせることを重視しています。このように、全体をリンクさせることを自然体でできる工務店が存在する一方、一連の思考を全く意識することなく、「紙媒体だけ」「モデルハウスだけ」といった部分最適にとどまるケースも多いようですので、今後のヒントにしていただければと思います。
集客数値の適切なゴール設定は?
次にすべきこととして、平均単価を想定し、何組集客するのかゴールイメージを決める必要があります。下記は平均単価を2000万円と設定した工務店が、分母となる来場組数を販促企画別に分けて、その後、進展する組数を記載したシンプルな図です。
こちらの図では、2000万級リノベーションを年間15組成約(年間受注3億円)、そのためには80組の来場組数が必要という想定で、歩留まりをシビアに設定した数値イメージです。各見学会を継続的に開催し、A+B+Cで安定集客を図るという狙いです。A、B、Cが計画通りに実施できない場合は、年間販促予算内で別の販促企画を開催することになります。
ちなみに私の現クライアント企業の売上対広告宣伝費比率は最も低い工務店で0.8%、高い工務店で3.8%となっており、比率は会社の収益構造や紙媒体の依存度、集客効率などによって差が出ているのが現状です。
紙媒体、リノベ専門サイトのポイント
次に分母となる来場組数に直結する紙媒体とリノベーション専門サイトについて述べていきます(新築サイト上にリノベーションページを設置するケースもよく目にしますが、理想は専門性をPRできるリノベーション専門サイトです)。
まずは紙媒体について、あくまでも現時点での見解ですが、大半の地方エリアではまだ紙媒体が有効であると判断しています。今後、どのタイミングで紙媒体を絶つのか見極めることは重要課題ではありますが、戸建のリフォーム実施者平均年齢は61.2歳という現状があり、商圏人口が100万人以上の都市部は例外として、WEB、SNSの集客力を補うには紙媒体が不可欠であると考えています。
新築マーケティング担当者なら「今さらチラシか」「今さらフリーペーパーか」と首をかしげる方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも市場規模や顧客の年齢層が新築事業と大きく異なるという理由です。
リノベーション事業のアウトプットの起点である紙媒体とリノベーション専門サイト、それぞれのポイントにも触れておきましょう。ポイントはいくつかありますが、ビフォーアフターの変化と性能向上の情報量を重視するよう、おすすめしています。特に施工前の画像は軽視されがちで、一定の商圏人口があり、主に一次取得者向けに高い次元のデザイン力や独自の世界観で支持を集められる会社でない限り、変化のアピールは築年数とならんでリノベーションならではの大切な要素です。
ビフォーの訴求は、ひと目でリノベーションと判断できるという効果があります。全国各地で投下する自社チラシの反響分析を徹底している某大手リフォーム会社の完成見学会チラシが全面にビフォー画像を掲載しているのも理にかなっていると言えます。
一方、リノベーション専門サイトでは、質をともなった施工事例の量が武器になることは言うまでもありませんが、まだ施工事例が限られる場合、断熱と耐震、それぞれの診断と施工方法に関する情報のボリュームが重要コンテンツになります。
性能向上を重視する以上、ブログやコラム、YouTubeでも施工中を重要視すべきでしょう。施工中のこだわりを発信することは性能向上において、信頼や専門性に通じるものがあり、大変有効です。
また、「費用」、そして地方では「古民家」もリノベーションの共起語として押えておきたいテーマです。WEBスクリーニングの時代において、単にこうしたテーマの情報量で差がつきやすいのは、先を行く新築業界とは需給バランスや買い手側の意識成熟度の違いという背景があります。
とは言え、今後、性能向上が当たり前になった段階においては、建築のプロとしての総合的な力が問われることになるでしょう。工務店リノベの本質は、お客様の暮らしへの寄り沿いであり、数値に偏りがちな性能向上(機能的価値)と「大切な思い出を受け継ぐ」「価値あるものを残す」といった情緒的価値にも視点を向けながら、アウトプットのかたちを追求することが肝要だと考えています。
新築事業のブランド力を最大限生かそう
新築事業の知名度やブランド力の高さは、リノベーション事業の集客に大きく影響を及ぼします。したがって、新築で確立されたコンセプトやブランドがあるなら、リノベーション事業で最大限に活かすこと。新築で大工力のイメージが強いのなら、リノベーションでも大工力は親和性が高く当然伝えるべきです。ぜひ、新築事業と乖離したアウトプットになっていないか注意しましょう。
また、新築サイトからリノベーションサイトへの流入も重要な経路で、動線がスムーズかどうかも大切なポイントです。こうした観点で、リノベーション事業への本格参入は会社としての進化であると同時に、自社の強みの真価が問われるという見方もできます。
今回はリノベーション事業ならではの集客についてお伝えしました。1000万円予算客しか存在せず、自社が重視する性能向上とミスマッチを起こしていた工務店がこうした一連の考え方とやり方で見え方をコントロールした結果、1500~2000万円のリノベーション案件が中心になったという例も少なくありません。ぜひ、キャッチコピーやデザイン性にとらわれすぎることなく、リノベーション事業ならではの全体設計という視点でマーケティングに取り組んでいただきたいと思います。
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