5 スピード感のある提案変更
ファストファションから学ぶべきもうひとつの点は、「小ロット多品種」というところである。
前述したように昨今のファストファッションのブランドは、多様な傾向のファッションを「流行っている」という1点ですくい上げて多品種を並べることで幅広い客層を取り込んでいる。
実はこの点については高級価格帯のブランドもまったく同じ方法論をとっているところが少なくない。その代表格は「ディーゼル」である。
価格帯を問わず、特定の志向性のコアなファンを捉まえることだけで成立させるビジネスモデルで成長することは厳しくなっている。こうした小ロット多品種生産的な対応は、住宅の世界でも価格帯を問わずに求められるようになってくるだろう。
簡単に言ってしまうと、設計事務所的な邸別の独自設計・独自仕様に対応する仕組みが工務店にも求められるようになるということである。
さらに、ファストファッションの強みはマーケティングである。「売れ線情報」がすぐにフィードバックされ、すぐに店頭に並ぶようにデリバリーされる。業態が違うので、同様の対応は不要だとしても、ウケている設備や仕上げ材などをすぐにキャッチし、標準仕様などを素早く変えていくスピード感は必要になってくるだろう。
6 セレクトショップはバイヤーが命
景気低迷のなかで、存在感を見せるもうひとつの企業群がセレクトショップである。
セレクトショップとは小売業のスタイルのひとつで、バイヤーのセンスで各方面から仕入れたものを販売する店舗のことをいう。これらの商品の組み合わせにより、ユーザーにスタイリングを提案することで支持を得るという方式である。
基本的には中小企業向きのビジネスモデルであり、企業規模が大きくなると自社オリジナルのベーシックアイテムなどを織り込み、SPA併用モデルとしてチェーン展開することになる。
チェーン展開している大手のひとつがユナイテッドアローズである。そして、この企業の顧客は高い確率で優良工務店の顧客でもあり、定点観測をお勧めしたいアパレル企業のひとつでもある。
ユナイテッドアローズのビジネスモデルについて語る紙幅はないが、洋服好きのユーザーから信頼を得ているというところに同社が好調な理由のひとつがある。
信頼されている理由はバイヤーの「目利き力」が高いためである。アパレルのバイヤーは視野の広い「洋服おたく」である必要があるが、同社のバイヤーはそれを体現している。
昨今はバイヤーが雑誌などに露出することも多いので、よりバイヤーの重要性やその感覚、キャラクターなどが伝わるようになっていることも大きい。
これは工務店にそのまま共通する要素である。現代の工務店は基本的にアッセンブル業的な色合いが強く、建材や設備、家具などのセレクトとその組み合わせが提案のキモである。
セレクトショップのバイヤーはそのまま工務店の営業や設計担当者に置き換えられる。これらの担当者には「視野の広い建築おたく」であることが求められるが、実態はどうか。
アパレルの分野に比べて住宅企画や販売の現場にはおたくやマニアが少ないのではないだろうか。
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