新建ハウジングプラスワンの連載「商空間デザインに学ぶ住宅インテリア先取り講座」から第4回「アパレル業界に学ぶ住宅提案」を紹介します。アパレル業界の最新動向から、住宅のインテリアやそれを踏まえた事業展開などについて参考になる部分をピックアップいただきました。
文・笈川誠[バンブーメディア]+大菅力[編集者]
1 アパレル×商空間デザイン
商空間デザインはアパレルとともに成長してきたといっても過言ではない。什器デザインからはじまり、ブランドのコンセプトを空間化した店舗デザインへと展開していった。
店舗空間は単なる売場ではなく、ブランドのアイデンティティやコンセプトを伝えるための重要なメディアになっていった。
こうした流れは経済成長とともに強くなり、そしてバブルの崩壊とともにひと段落がついた。バブル後には、店舗のインテリアデザインにコストをかけるのは意味がない、マーチャンダイジング(MD)さえきちんとやれば売れるという風潮に変わったのである。しかし、ローコスト化し、無個性化した店舗では売り上げは伸びなかった。
そして、2000年代前後には、MDは大事だが、空間の個性化も必要だという揺り戻しが起こった。再び、アパレルブランドとインテリアデザイナーの蜜月時代が始まったのだ。
しかし、この蜜月時代は終焉を迎えつつある。その引き金を引いたのが、「ファストファッション」という黒船である。
2 ファストファッションから何を学ぶか
ファストファッションとは、短スパンのトレンド商品を低価格で大量販売する方法である。
追加生産を行わない売り切り型で、各種のコストカットにより低価格を実現するのが特徴だ。広義では渋谷109系の仕入れ型の独立系ブランドも含まれるが、SPAを取り入れたヨーロッパのブランドを指すことが多い。
SPAとは「Speciality store retailer of Private label Apparel」の頭文字を組み合わせた造語で、企画・生産・販売を一体化し、流通経路を短縮することで高マージンと安価化が可能になる仕組みを指す。
SPAにより売場の情報を直に入手でき、それに合わせて人気商品の増産や不人気商品の廃番などの対応が即座にできるという利点も生まれる。「ZARA」や「forever21」、「H&M」などはSPA型のファストファッションブランドの代表格で、世界規模で展開している。日本国内でのシェアはまだ1%を超えた程度だが、急カーブで伸びてきている。
これらのブランドによる商品の圧倒的な低価格化により、空間でブランドの世界観を伝えるという手法は再び過去のものになった。実際、ファストファッションの店舗はどのブランドを見ても、非常にローコストである。この空間に住宅のインテリアに影響を与える要素を見つけだすことは難しい。
では、ファストファッションのブランドから住宅業界が学ぶべきものがないのか。決してそうではない。ただし、それはインテリアの新しいイメージや素材の使い方ではない。彼らが顕在化させた若年層の消費傾向そのものが、住宅事業者の学ぶべき重要なポイントとなる。
ファストファッションは、経済の低迷に後押しされて伸びている。この構図はどの業界でも共通するものであり、そこに対応した手法は参考になるはずだ。
[新建ハウジングセミナー]小泉誠の家具提案×空間デザインの作法
●本記事執筆者の笈川さん、大菅さんに加え、人気家具・インテリアデザイナーの小泉誠さんにも登壇いただきます。
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