木と相性がいい「外断熱・二重通気」で差別化
木材の生産・販売・プレカットなどを手がける大三商行 千葉支店(千葉県市原市)の建設部は、以前手がけていた注文住宅事業をもう1度立て直そうと、2020年に「カネカのお家 ソーラーサーキット」を導入。木材を扱う会社が自社大工でつくる高性能でデザイン性の高い木の家でリブランディングを図り、県外からの問い合わせも増えている。住宅事業責任者の石川知弘さんと、営業課長の飯塚一樹さんに話を聞いた。
大三商行の設立は1950年。岡山県岡山市に本社を構え、木材の生産・買付・販売からプレカット、不動産、建築までを手がける木のプロフェッショナル企業だ。そんな同社が千葉支店の建設部で注文住宅事業を始めたのは1995年のこと。注文住宅事業を手がけるなかで、当時の顧客から「どうしてもソーラーサーキットで家を建てたい」という要望があり、(株)カネカが独自開発した外断熱・二重通気工法を核とする工法VC「カネカのお家 ソーラーサーキット」(以下:カネカSC)に出会い、2002年に加盟。以降、ソーラーサーキットを指名する顧客のために外断熱・二重通気の住まいを建築してきた。今回話を聞いた石川さんと飯塚さんも、十数年前に自邸をソーラーサーキットで建てている。
差別化できると確信
実は、同社は2015年に1度カネカSCを退会している。理由は、当時の部署の事業方針でアパート建設がメインとなったため。戸建て住宅から遠ざかっていた期間が5年ほど続いたが、次第にアパートに一時期ほどの勢いがなくなったのをきっかけに、もう1度注文住宅事業に挑戦することになった。そこで、2020年にカネカSCに再加盟。ねらいはどこにあったのか。
「私たちが注文住宅をほとんどやっていない5年間で戸建て住宅の世界が大きく変わり、脱炭素に向けて高いレベルの断熱・気密性能や太陽光発電が求められ、以前はそこまで性能をうたっていなかったハウスメーカーも一斉に性能に走り始めたのを肌で感じていました。そんななか、地場系の私たちが中途半端なコンセプトで性能やデザイン、コストを打ち出しても埋もれてしまう。他社とは違う特徴がないと―そう思った時に、単なる高断熱・高気密ではなく、ソーラーサーキットの“外断熱・二重通気 ”という技術があれば明確に差別化できると考えたのです」。
さらに言えば、断熱性能は比較的容易だが、気密と通気を高いレベルで確保するとなると施工や管理の手間がかかり、量産型のハウスメーカーやビルダーは追随しにくいこと。木材を扱う会社として、木にとって最適な“通気 ”が得意な技術であり、同社の強みである在来軸組や自社大工との相性がいいこと。営業・施工のノウハウがすでに社内にあり、ブランドを最速で立ち上げられること。十数年ソーラーサーキットの家で暮らしてきた経験値をもとに、顧客に住み心地を説明できること―これら複合的な理由が再加盟を後押しした。
お約束C値0.3以下を徹底
昨年10月、同社はソーラーサーキット工法を採用したリアルサイズのモデルハウスを竣工した。以前の加盟時には夏涼しく冬暖かい温熱環境や計画換気・除湿による空気感を感じてもらう場がなく、営業に苦戦した経験があったため、今回は体験・宿泊できる場が必須だと考えた。
あわせてホームページもリニューアル。カネカSCでは加盟店に中間と完成の計2回の気密測定を義務付けているが、同社はさらに「最高C値0.1、お約束C値0.3以下」をホームページ上で宣言している。
「高気密をうたっている会社でも、気密測定を全棟で必ず2回実施し、しかも0.3以下を毎回確保できるところは少ないはず。気密性能を極めることで第一種換気の能力を最大化できるうえ、自社大工の技術力もアピールできます。当然、手間もコストもかかりますが、当社にとって気密は“尖らせるべき強み”だと考えているんです」。今後は、社内で気密測定器を購入し、気密測定技能者の養成も視野に入れている。一方、顧客側も、断熱・気密・通気・除湿に対する関心は高いようだ。ホームページで2番目に閲覧数が多いのが「性能・仕様」のページで、モデルハウス来場者はこうした基本情報を押さえたうえで、同社がつくる家の素材感や心地よさ、価格帯を確認しに来るケースが多いという。
体感と数値で伝える
飯塚さんらは、対面での営業では性能や仕様の話は基本的に自分たちからはしないと決めている。「まずは人間を知ってもらうことから。私の場合は長年現場監督をしてきた経験と知識をベースに、ソーラーサーキットや木材、自社大工の良さを誠意をもって話すようにしています。人間という“骨 ”に技術や素材という“肉 ”がつくからトークに個性や厚みが出る。そうするとお客様も、当社の考えに共感したり、対応を評価してくれ、自然と商談につながっていく。技術のあるものを売る以上、それを扱う人をまず売るのが正しい順序だと思うんです」と飯塚さん。
「自分がいいと思うものをお客様にもおすすめするスタンスを大事にしたい」と言い、ソーラーサーキットで建てた自宅と、冬寒くて夏暑い実家との住み心地の違いを伝えながら、メリットをモデルハウスでいかに味わってもらうかに気を配る。また、話が「感覚」だけに偏らないよう、カネカSCと信州大学の共同研究に参加して、モデルハウスの住み心地を数値化する取り組みも行なっている。「この間取り、この仕様、この空調ならこういう温熱環境になるということを可視化できたら理想的」と期待を寄せる
県外からの反響も増加
今年4月からは宣伝・集客をWEB戦略に完全移行し、インスタグラムやグーグルの広告から自社ホームページへと誘導するスタイルを確立。反響は上々で、資料請求や電話の問い合わせは月15~18件、モデルハウスへの来場は月5件ほどあり、このうち1件は商談に至る。
顧客層は、以前であればソーラーサーキットに興味を示すのは京葉工業地帯の研究所に勤める技術職が大半だったが、現在は性能に加え、デザイン・素材・上質感などさまざまな要素を求める高感度層が反応している印象で、顧客の幅が広がった。
さらに、地元の千葉県だけでなく東京・神奈川の一部エリアにも情報発信を始めたところ、施工エリア外からの問い合わせが増加。働き方がリモートワーク中心になり、室内環境の質を上げたい人、あるいは電気代の値上がりが気になる人にとって、都内よりも土地が安く、高性能な戸建て住宅を取得できる可能性が高い同社の周辺エリアは魅力的だ。そうした移住希望者も掘り起こしつつ、丁寧に実績を重ねたいとし、今年の受注目標は9~10棟、来年は15~20棟を掲げる。
「私たちが提供したいのは、初期投資はある程度かかっても、電気代やメンテナンス費用など住んでからお金と手間がかからない価値のある家。その根本にあるのがカネカSCの技術であり、私たちの強みである木材と自社大工を組み合わせ、段階を踏みながら高品質かつ高額な家づくりを極めるつもりです」。
※カネカのお家、ソーラーサーキット、外断熱・二重通気工法は株式会社カネカの登録商標。
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