工務店を対象にした性能向上リノベーションの事業化を支援しているコダリノ研究所(神奈川県横浜市)代表の稲葉元一朗さんによる、DIGITAL連載「現場で役立つリノベの勘所」がスタート。工務店によるリノベ市場の可能性と事業化に向けた具体的な方法について、競争戦略×事例研究により最適解を解説していきます。(新建ハウジングDIGITAL編集部)
「リノベーションを事業化したいと考えていたが、どこから手を付ければいいかわからない」
クライアントである工務店の担当者から、よく聞く言葉です。リノベーションというテーマは、チラシやWEBなど目に見える要素がある一方、属人的な事業という特性上、再現性をともなったビジネスモデルとして掴みにくいといった事情があるほか、これまで言語化や情報共有がされてこなかったという背景があります。
そのような中、私は「工務店にとってのリフォーム事業とは」という問題意識から始まり、戸建リノベーションビジネスの事例研究と経営理論を通じて、事業化の考え方、戦略や戦術をクライアント企業に伝えてきました。その結果、年商2億円の新築主体の工務店がリノベ-ション専門会社に業態転換し、年商6億円規模に成長された事例や、リノベーション事業に参入し、年商5億円を超えて確固たる第二本業となっている事例など、各地域で着実に成長する「リノベ工務店」が増えつつあります。
工務店リノベの道筋を照らしたい
私の役割は、顧客創造に関する比重が7割ほどありますが、一方でリノベーション案件の創出だけに部分最適させてクライアント企業の業績が向上するわけではないことも事実です。
やはり事業化させるためには、事業を支える経営資源、事業展開の考え方の理解、点でなく全体設計という視点でビジネスモデルの精度を日々高めていくことが欠かせないと常々感じています。2012年頃から研究に着手し、検証を重ねた結果、事業化の手順や必要条件に関してはほぼ明確になっています。
人が介在するビジネスであり、また各社の強みが様々である以上、すべてが理屈通り進むということはなかなかありませんが、多くの地方エリアで戸建リノベーションが未成熟の市場だからこそ、強みを活かせる工務店にとってはファーストワンから、オンリーワン、ナンバーワンへと進化する可能性を秘めているのです。
今後、各地でリノベーション事業の成功事例がさらに増えてくると確信しています。今回スタートする連載が雲間から光が差し込み、少しでも道筋を照らすきっかけになれば幸いです。
定義があいまいなリノベ市場
取るべき工務店のポジショニング
リノベーションというワードは年々検索ボリュームが増加しました。ただ、おしゃれリノベ(表層的なリノベ)も含め、定義はあいまいなまま、リノベーションという言葉が認知されてきました。
「リノベーション+エリア名」でGoogle検索した際、賃貸系ポータルサイトが上位を占めるようなエリアはなおさらです。実は国交省でさえ、統一された見解はなく、制度や政策ごとに定義づけが異なるのが現状です。こうした定義があいまいなリノベーション市場において、まずすべきことは、会社が考えるリノベーションを社内の指針として定義づけし、さらに地域に発信することで大なり小なりその領域の中で独自ポジションを築くこと。
その上で取り組む前提になるのが、市場ニーズ、競合状況、自社の強みに適合するかという大局的な着眼です。市場ニーズとは外部環境の変化を予測したり、顕在化されたニーズをつかんだりということだけではなく、地域に向けた自社が正しいと信じるリノベーションの発信により、需要を創造するという意味でもあります。
近年、ようやく性能向上という概念が業界に浸透・普及しつつありますが、まさに性能向上リノベーションはこの3条件、特に3つ目の自社の強み(建築リテラシーという経営資源)が適合する工務店にとっては、既に保有する強みを業際とも言える領域にシフトすることにより、大きなビジネスチャンスとなっています。
理念、哲学がベースにあるリノベ事業の全体像
リノベーション事業の全体像について、私が描いている全体像は図2の通りです。社会的意義に通じる理念、哲学が基盤にあり、正しいと信じることを志と誇りを持って取り組む組織があって、理念、哲学に一貫した商材や仕様を採用。施工現場に至るまで浸透していなければなりません。その上で地域へのメッセージやランクアップのための営業フローが位置づけられるイメージです。その結果として、建築のプロとしてのイメージや世界観につながるという考え方です。
リノベーション事業の本格参入の際には、どこか一部だけという偏った追求ではなく、理念、哲学をベースにした全体観でビジネスモデルの精度を高めながら、持続的な顧客創造につなげていただきたいと思います。
私は戸建リノベーション事業の参入が、単に新築市場が縮小するからという理由だけでなく、創業以来、受け継がれていた会社のDNA、強みを冷徹に見つめ直し、「どうしたら自社が事業を通して、お客様の暮らしや地域社会をより良くできるのか」といった重要な存在意義に立ち返るきっかけになればと考えています。
経営者にとって「高い視座で市場、競合、自社の強みを見極め、先手を打つこと」「事業化の全体設計をつくること」は大きな役割の一つです。ぜひ、次なるステージへ一歩を踏み出すヒントにしていただければ幸いです。
現時点の日本ではドイツのような官民が連動するダイナミックなストック住宅シフトへの政策はまだ感じられませんが、断熱・耐震等潜在ニーズも含めた市場規模が莫大で、かつ、競合が限られることは衆知の通りで、リノベーション市場の将来は事業者による需要喚起に大きく左右されると強く感じています。ぜひ1社でも多く、強みを活かせる工務店が、自社が定義づけするリノベーション市場を通じて、活路を見出していただきたいと願っております。
【おすすめ記事】
#2 【稲葉元一朗】リノベで暮らしや地域をどう良くしたいのか?
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。