今回は、中央ヨーロッパの職人の世界で中世の頃から続く伝統的な風習である「旅修業」を紹介したい。職人資格(ゲツェレ)の資格を取得した若者が、3年間と1日以上、放浪の旅に出るというものだ。現在、NPO法人環境共棲住宅「地球の会」と著者のサポートのもと、日本で旅修業をしている2人ドイツの大工職人がいる。受け入れ先の安成工務店(山口県下関市)にインタビューする機会を得たので、その内容も併せて紹介する。
安成工務店で10月から修業をしているクリスティアン・ランツとティム・ゴットレーベは、ともに20代半ばだ。クリスティアンは放浪の旅3年目、ティムは5年目で、熟練の旅職人 だ。大半の旅職人は「Schacht(シャハト)」と呼ばれる旅職人の協会に所属している(ドイツには複数のシャハトがある)。彼らが所属するのは「ローランド・シャハト」で1891年に設立された老舗。シャハトは旅職人を支援するとともに、厳しい「掟」を定めている。
中心的な掟は、故郷(もしくは職人が養成を受けた地域)の60km圏内には侵入してはならない、というものだ。新しい考え方や技術、生活文化のなかで自分を磨くためだ。旅職人達は、ドイツやヨーロッパだけでなく、世界中の見知らぬ場所へ旅をしている。現代人の必需品であるスマホも所持してはいけない。
移動は基本的に徒歩かヒッチハイクという掟がある。さすがに日本へ来る職人は、渡航は飛行機を使う。クリスティアンとティムは、今回、コロナ水際対策のためにビザの取得が遅れたので、成田空港に到着してから、新幹線を使って下関まで移動したようだが、安成工務店で8週間の修業を終えたあとは、ヒッチハイクで4週間、日本を・・・
この記事は新建ハウジング11月30日号 9面(2022年11月30日発行)に掲載しています。
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