東京商工リサーチ(東京都千代田区)は11月2日、2022年「後継者不在率」について調査、分析した結果を発表した。2022年の「後継者不在率」は59.90%で、前年(58.62%)から1.28ポイント上昇した。産業別では10産業すべてで50%超えとなり、建設業は前年比1.81ポイント増の60.11%、不動産業は同0.91ポイント増の59.88%だった。不在率トップは情報通信業の76.93%(同0.13ポイント増)だが、代表者が比較的若いIT関連業種が含まれていることが影響しているとみられる。最も低かったのは、農・林・漁・鉱業の51.96%(同50.08%)だった。同社は不在率上昇の背景に、新設企業の増加もあるとしている。
業種別では、インターネット附随サービス業が90.83%と唯一9割を超え、不在率トップとなった。上位10業種は、インターネット通販を含む無店舗小売業や情報サービス業、通信業など、代表者の年齢が比較的若い新興業種が並ぶ。一方不在率が低いのは、協同組織金融業(27.45%)、宗教(31.70%)、協同組合(32.88%)、漁業(35.61%)など、社会インフラを担う業種が多い。
代表者の年齢別では、創業・事業承継から日が浅いとみられる30歳未満(96.11%)が最も高く、50代まで「不在」の割合が「有り」を上回っている。80歳以上になると後継者が不在の企業は21.8%に達し、事業承継の観点から対応が急務となっている企業も多い。同社は、代表者が高齢になると事業承継が難しくなることから、金融機関・支援機関による廃業支援への取り組みの必要性を指摘している。
後継者「有り」と回答した6万9030社のうち、息子、娘などの「同族継承」が4万5417社(65.79%)と7割近くを占め、社外の人材に承継する「外部招聘」(17.04%)と従業員に承継する「内部昇進」(16.72%)はいずれも2割未満だった。「不在」と回答した10万3146社に、中長期的な承継希望先を聞いたところ、「未定・検討中」(49.16%)が最も多く約半数を占めた。前年(50.59%)から改善しているものの、事業承継の方針が不明確または計画が立たない企業が依然として多い。次いで「設立・交代して浅い又は若年者にて未定」(44.44%)が続いた。「廃業・解散・整理(予定含む)にて不要」は592社(0.57%)だった。
都道府県別では、神奈川県が74.50%(前年74.11%)、東京都が71.33%(同71.16%)で、2都県で70%を超えた。最低は長崎県の28.57%(同24.43%)だった。企業の設立数が多い大都市ほど後継者の不在率が高く、地域差が大きくなっている。
ロシアのウクライナ侵攻に伴うサプライチェーンの混乱や原材料価格の高騰、資源高、円安進行など、企業は「複合危機」への対応を迫られている。代表が高齢で後継者が不在の場合、抜本策が取りにくく、政府の事業再構築支援の対象から漏れるケースも想定されるという。コロナ禍の出口戦略のなか、同社はこれまでの事業継続を前提としたプッシュ型支援だけでなく、企業のライフステージに合わせた、廃業も視野に入れた支援が重要になるとしている。
3月に全国銀行協会と日本商工会議所は「廃業時における経営者保証ガイドラインの基本的考え方」を公表。法人破産時の代表者(保証人)の破産回避やいわゆる「ゼロ円弁済」の許容に言及している。後継者不在の企業に対するさまざまな取り組みの実効性を高めるためにも、資力が乏しい代表者のリタイア後の生活設計の検討が急がれるとした。
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