「雨漏りの恐れのない家」はこの世に存在しない
そんなときに出会ったのが、石川廣三先生の「雨仕舞いのしくみ」という書籍だった。雨の降り方から水の流れ方、建物の雨仕舞い、防水のディテールについて詳細に解説されていた。私が経験的に身に着けた雨漏り修理の方法に確かな裏付けを得た思いだった。こうした雨漏り修理の基礎知識を共有しようと、同じ志を持つ仲間とNPO法人雨漏り診断士協会を設立したのもこの頃だ。
原因を突き止めて、適切な対処をしないと雨漏りは決して止まらない。また、現在、雨漏りが発生していない家でも、何らかの不備があるようなら、家屋内に雨水が浸入している恐れがある。まだ気づいていないだけかもしれない。そして、建築物には経年劣化という現象がつきものだ。「雨漏りの恐れのない家」というものは、この世に存在しないと思っていたほうがいい、と私は考えている。
雨漏りを知らない設計・施工者が多すぎる
当社ではあくまでも「修理」をなりわいとしている。雨漏りの原因について、屋根面や外壁面などの外皮の上からのみ行う工事などを「補修」とすると、私が手がける「修理」は根本的な原因・部位に対処するとともに、その周辺の劣化や腐朽などの二次被害についても直接的に改善する。雨漏りの根本的な原因を解消して、住まい手のストレスや負担を取り除くことが重要だと考えている。そのためには、雨漏りの原因を調査・診断した後、建物の現況や、建物に使用されている素材、そしてお客様の要望、これらを加味したうえで、修理の見積もりと提案を行っている。
私はそのような姿勢で年間100件ほどの雨漏りの調査・修理に携わってきた。その中では、雨仕舞いや防水に関する配慮に欠けた建物を数多く見てきている。雨漏りの恐ろしさを知らない設計・施工者があまりにも多すぎることを痛感するばかりだ。
それでも2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、住宅の主要構造部分や雨水の浸入を防止する部分の瑕疵について住宅事業者が責任を負うことが法律上、定められたことにより、徐々に改善の兆しを見せ始めてはいる。
雨漏りは起きないほうがいいに決まっている。住まい手はもちろん、工務店にしても修理の手間や顧客とのトラブルに消耗するような事態は避けたいはずだ。
雨漏り対策の知識は住宅の品質向上にも役立つ
雨漏り対策は、雨仕舞いを考慮する設計段階から、正しい防水・水密施工を施すための現場管理、経年劣化に対する適切なメンテナンス、雨漏り発生時の現地調査まで、多方面にわたる。連載ではそれぞれの雨漏り事例から一連のポイントを抽出しながら、要点を解説していく予定だ。
雨漏り対策がきちんと反映された住宅であれば、気密性も保持されるので、雨漏りはもちろん、壁体内結露や蟻害、腐朽菌の被害なども起きにくくなる。気密性能とともに住宅の長寿命化にもつながるはずだ。雨漏りはどのような住宅事業者にとっても他人事ではない。この連載が多くの読者の参考になり、1件でも多く、雨漏り事例が減ることを願って、紙面で展開していきたいと思う。
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