工務店も家づくりの再整理のとき
安成:そうですね。ただ、いま工務店さんも今後どんな家づくりを理想とするのか、整理をする時期にあると思います。住宅市場では長く、手仕事の価値とそれを担ってきた工務店の価値が認められず、工業化住宅とハウスメーカーさんが業界をリードしてきました。
その一因は、我々工務店のつくる家のデザイン性が乏しかったり、会社として信頼が置けなかったりするところがあったと思うんですけど、今は違う。デザイン性さえ担保できれば、Instagramや動画などの発信によってデザインに惹かれたお客様のところに我々の家づくりの情報が届きます。届きさえすれば手仕事の価値や工務店の家の性能、工務店の信頼性についても深く知ってもらうことができる。時代が変わろうとしている節目だと思うんです。
ただ、自社の家づくりを整理する際に、どういった整理をするのかというのが重要です。安成工務店の場合は目指す理想像を整理した上で戦略を決めてますから、ブレずに進んでこれています。個社で整理がきちんとできないと、国産材や地域材の家づくりといっても一過性の取り組みで終わり、市場が厳しくなるとブレてしまうことはあると思います。
三浦:確かに再整理の時機としてはウッドショック・資材ショック・エネルギーショックを経た今はいいタイミングのかなとか思いますね。
そして、その辺を再整理したり、一緒に考えていく仲間・場として地球の会が機能しているという気がします。2人にも聞いてみましょう。地球の会に入っていたメリットや得たものを教えて下さい。
相羽:地域工務店ってお山の大将で、会社の大小に関わらず会社にいれば都合の悪いことは見なくていいですし、元請けという立場なので職人さんも慕ってくれるみたいな部分があると思うんですけど、現実的にはここまでの議論にあったように外部環境も工務店の状況も変わってきているなかで「他社を知る」ってすごく大事な気がするんです。
地域工務店って内需産業の中にいるので、近しい人たちがどう生きて、どう戦っているのかっていうのはやっぱり見なきゃいけない。
地球の会ではベンチマーキングをずっと続けていて、近しい人たちを見るうえで良い場になっています。
一方でベンチマークした他社を見たうえで、自分で考え何かを生み出さないといけない時期に来ている気がするんですよね。地球の会はそのためヒントを得ることができる場で、その価値はすごく大きいと思っています。
そして、立場、規模、地域を超えていろんなことを共有できる仲間がここにいる。格好良く言っているわけではなく、実感として。地球の会の最大のメリットはなんですか?って会員工務店に聞くと、等しくこういう答えが出てくるのではないでしょうか。
大野:地球の会の立ち上げから参画し、国産材・地域材を使った木の家づくりをスタートして10年以上経ちます。
国産材・地域材を使った木の家づくりというところで言えば、工業化住宅全盛の時代から見ると真逆の家づくりのように見えたかもしれないですけど、この地域工務店としての軸、志を共有できるという点で、地球の会は数少ない団体だと思います。
軸とか志も、先ほど相羽社長が言ったように1社だとお山の大将になりがちですが、軸や志を同じくする会員工務店と課題を共有したり、今回のサミットのテーマでもある「自分らしく生き残る」ためにどうするのかを、ベンチマーキングだったり、世代を超えた、あるいは同世代の交流だったりで、情報交換できヒントを得ることができる。私としては軸を確認し、軸を固められる非常にありがたい会ですね。
全国サミットを定点観測的に開催しながら再度連携を高めたり、軸・志を同じくする会員さんを増やしてくことで、国産材・地域材を使った木の家づくりっていう軸を確認・強化しつつ、切磋琢磨して厳しい時代を生き抜いていけるんじゃないかと思っています。
三浦:安成理事長からも地球の会の特徴や加盟メリットについて補足してください。
住宅の保守本流・工務店経営の王道
安成:地球の会ができた15年前は「国産材の木の家づくりをあたりまえにしよう」というテーマでしたが、今はこの先の住宅の保守本流を追求する団体としての役割もあると思っています。
三浦:この先の住宅の保守本流とは?
安成:脱炭素が加速するなかで、やっぱり地域工務店のつくる木の家が家づくりの正解、保守本流だ、ということになると思っています。
地球の会としてはその追求をもっと活動の中心に据えていかなければいけない、それによって社会から工務店とその家づくりが明確に認知され、支援されると、私は考えているんです。その意味でも地球の会の存在意義はますます大きくなると思っています。
三浦:今回のサミットのテーマは「自分らしく生き残る!」だと聞いていますが、その手前としてまず「地域工務店らしさとは」「地域工務店らしい家づくりとは」という前提の議論が必要ですね。
まずは地域工務店らしさ、安成会長が言うこの先の住宅の保守本流を担う存在としての工務店のあるべき姿を再整理して、そのうえで個社が自分らしさを整理して自分らしく生き残っていく、というイメージでしょうか。
安成:安成工務店で行った整理を少し共有しましょう。
まず、地域工務店として自然素材と国産材・地域材を使った木の家を追求していますが、その理由は地域循環経済に貢献する「地域型住宅」があるべき姿だと考えているからです。やはり住宅産業は地域産業なんだっていうことをベースに考え、地域の経済を回すということについても腹落ちしないといけないと思うんですね。
2番目に、自然素材の木の家は健康長寿に貢献できる健康住宅という視点を持つ。
無垢の木の床とか無垢の木の天井が健康長寿にいい影響を与えていることが私たちの実験の結果出てきています。
今後は自然素材の木の家は認知症リスクを低減できるとか、5歳ぐらいは長生きできるとか、健康長寿への効果を実証できれないいと思っています。
3番目に、自然素材の木の家はイニシャルCO2が工業化住宅と比べて断然低いということです。これは脱炭素の流れのなかで非常に有利になり、貢献できる点です。しかもランニング CO2は工業化住宅と比較してもまったく遜色がありません。
4番目には、自然素材の木の家は地域の職人の腕と存在価値を生かせる住宅ということです。
これはあくまで安成工務店が考える整理ですが、工務店のつくる「地域型住宅」、自然素材の木の家の整理として一定の普遍性をもっていると思います。まずは地球の会としてこうした住宅の保守本流のあり方を共有し、そこから先は会員各社の特徴を生かして光るということだと考えています。
三浦:個人的には共感するお話でした。理屈とか理由って大事だなと思うんですね。
なぜ自然素材の木の家を工務店が手仕事でつくった方がいいのか、みたいな話だと思うんですけど、その理由がぼんやりとしたまま、雰囲気だけで進んでも、スタッフや消費者が腹落ちできなかったり、社長もトレンドに流され工業化住宅に戻ったり輸入材を使うみたいな流れにまた戻ってしまうかもしれない。
だから、今のお話のように、目指す理想像とその理由=パーパスみたいなものが、個社でも必要だし、地球の会全体でもより明確になっていくといいかなと思いました。
安成:脱炭素の流れのなかで今後求められる住宅は「地域型住宅」であり、工務店のつくる自然素材の木の家なんだということを明確に伝え、社会に位置づけるための具体的な戦略が必要です。
三浦:大事なテーマだと思いますが、地球の会の中核メンバーとしてお2人はどう思いますか?
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