2022年11月15日にNPO法人環境共棲住宅「地球の会」が「第12回日本の木の家づくりサミットin関東」を開催するのにあわせ、本紙では地球の会の安成信次理事長、そして今回の開催エリアである関東の会員工務店・相羽建設の相羽健太郎社長、大野建設の大野哲也社長に、今回のサミットのテーマ「自分らしく生き残る!」の前段として「工務店のピンチとチャンス」について語って頂く座談会を企画した。全文掲載でお届けする。【進行=新建ハウジング発行人:三浦祐成】
三浦:ここでは、11月15日にオンラインで開催される、地球の会主催の「第12回日本の木の家づくりサミットin関東」のプレミーティングのような位置づけで、地域工務店のピンチとチャンスについて議論できればと思います。
参加者の皆さんをご紹介をさせていただきます。地球の会理事長で安成工務店代表取締役の安成信次社長です。
安成:どうぞよろしくお願いします。
三浦:地球の会のサミットは地域持ち回りでホストが決まり、今回は関東の工務店さんがホストを務められるとのことで、2社をお招きしています。まず相羽建設の相羽健太郎社長です。
相羽:よろしくお願いします。
三浦:もう1人、大野建設の大野哲也社長です。
大野:よろしくお願いします。
三浦:今回のサミットのテーマ「自分らしく生き残る!」について、本番でいただく話の前段として僕の方から地域工務店のピンチとチャンスについて質問してそれにお答え頂くなかで本番への興味、サミットでもっと深く聞きたいと感じて頂ければと思います。
工務店さんが今番関心があるのが、足下の市場環境とそこに工務店としてどんなピンチとチャンスを感じてるのかだと思います。
3人とも現役の工務店社長ですので、工務店して感じていること・考えていることをお聞きしたい。まずは安成理事長からお願いします。
工務店のピンチ—集客減と原価上昇
安成:非常に厳しい局面に向っていると思いますね。
1つは資材がこれだけ高騰しているので住宅価格も相当上がっている。私たちがつくる住宅は、大雑把に言って1棟平均4000万円ぐらいですが、以前と比べ300万円ぐらい上がっています。
私たちにとってみれば8%くらいの価格上昇ということになるんですけど、2000万円の家の場合10%から15%上昇している可能性がある。お客様に対するアプローチが非常に難しくなっています。
もう1つ、コロナ禍の中、人々の関心が住宅に向き、住宅業界にとっては追い風になっていたところに、この4月以降は価格上昇もあって、いわゆる買い控えなのか、集客減という形になって現れていることです。
全体として見ると工務店の集客量はだいぶ落ちているのではないでしょうか。各社とも色んな方法でイベントを増やして集客しようとしているわけですけど、元のようにはいきませんよね。
来年にかけて受注減になる可能は十分にある。相当厳しい市場状況になるのではないかと見ています。
三浦:このあたり少し深めていきたいと思います。
ウッドショックがまず資材上昇のきっかけになったと思うのですが、安成社長はウッドショックの現在地をどう見ていますか?
安成:一段落した感があります。北米材にしてもそうですね。
三浦:木材以外の値上がりも続いている状況を見ると、先ほど1棟あたり300万円ほど上がった価格が落ちるという感触は持っていない?
安成:これまでは交渉して値上げを先延ばしたりするなど、ある程度交渉によって調整できた部分もあったと思いますが、どの会社も10月以降は本格的な資材値上げに向き合う状況になっているのではないでしょうか。
三浦:このあたりお2人にも聞いてみましょう。大野さんどうですか?
大野:原材料から製品まで、ウッドショックや新型コロナに起因する流通の滞りやそれに伴う値上げは感じています。我々も足下の住宅価格は10%から15%ほど上がっている。
ウッドショックについて言うと、我々地球の会は国産材を積極的に使う工務店の団体でありますし、当社の場合埼玉県産材を直接購入するルートを構築していたので、ウッドショックはある意味追い風で、風向きとしてはよかった。
現在ウッドショックが落ち着いてきたなかで県産材ルートの競争力が薄れ、他の資材価格の上昇分が価格を押し上げています。資材価格は下がる見込みがないなかで、どうするか。当社としては、単なる値上げではなく、価値も高め一緒に訴求していくしかないのかなと思っています。
三浦:相羽さんも資材ショック、ウッドショックの話の現状と影響について。
相羽:恐らく大都市圏の方が影響の幅は大きいんだろうなと思っていて、僕たち東京でやってるなかで言うと、価格上昇は10%ではきかなくて、新型コロナ前に比べると20%増ぐらいの感覚でいます。
付け加えると、悩ましいのは契約金額と資材発注時の資材価格のタイムラグ。本当は着工ギリギリのタイミングで契約したいけれど、競合もあるのでなるべく早めに契約してしまう。上昇前の資材価格で見積もりして契約し、発注時に資材価格が上昇していると、それは利益率の低下に繋がります。
また当社の場合、最近非住宅を含め大型物件が多くなってきていて、住宅も億を超えるような高額物件があり、工期が長い物件ほどこのタイムラグの影響を受けます。
このあたりは本当に頭が痛い問題で、やりくりに追われてるというところです。会社によっては早めに契約して、資材価格上昇分は追加契約などで処理するケースもあると思いますが。
国産材・地域材を使った家づくりが再評価
三浦:地球の会の目的の1つは国産材・地域材を使った家づくりを推進することだと理解しています。この辺りを補足していただきながら、ウッドショックが国産材・地域材にとって追い風になったのか、ウッドショックが収まりつつあるいま再び海外の輸入材頼みになってしまうのか、個人的な見解も含めて教えていただけますか。
安成:当社は元々地域材による家づくりを明確に方針化していて、それはウッドショック後でも変わりませんが、輸入材が入らなかったから急場しのぎで国産材を使ったという会社は今後輸入材が安くなればそちらに戻りますから、国産材・地域材の振興という点では元の木阿弥になるかもしれません。
ただ、ここ2〜3年、ウッドショックもあったので、林野庁が旗を振って各地の林野行政が盛んに地域材活用を促す動きをしている。私たちの地元でも地域材をもっと活用するにはどうしたらいいだろうかという議論が再度始まっています。
1つの切り口は、我々工務店が山と直接繋がって家づくりを行うことです。ずっと取り組んできた我々からすると、過去からもう何回目かの議論なんですが。中間業者さんの存在もあるのでそうしていくのはなかなか難しい。結局、最終的に市場・消費者が、山と工務店が直接繋がる家づくりを選ぶということでなければ。山にもっとお金が入るようにしないと、山も生き返りませんが、厳しい問題です。
三浦:中間業者さんの話を含めて、山と木材と工務店と市場の流れをどう適正化していくかだと受け取りました。ここに対して地球の会として何かやれることはありますか?
安成:地球の会としては、まず現在取り組んでいる活動をさらに加速させることが重要だと考えています。
例えば、コロナ前は「全国一斉森林体験ツアー」と呼ぶ、毎年春と秋に、全国の会員工務店で林産地見学ツアーを一斉に開催していました。ふだん森林に触れることのない消費者を森や製材所にご案内し、国産材・地域材による家づくりの意義を伝えるイベントです。
今後も消費者に国産材・地域材による家づくりの意義をもっともっとアピールしたい。SDGsやCSR・CSV経営が注目され実践が進むなかで、国産材・地域材による地域工務店の家づくりはこうした世界的な流れに重なるものであり、三方よしで理に適っているという理解が深まれば、会員工務店さんも取り組みを加速すると思いますし、地球の会の存在もますます重要になると思っています。
三浦:ウッドショックがきっかけで国産材・地域材に興味を持ったけどこの先どうすればいいんだとか、単独で国産材・地域材振興に取り組むよりもみんな一緒に活動したい、といった思いを抱いている方には、今こそ地球の会に参加してほしいですよね。
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