地域における中小規模の工務店は、少子高齢化、現場の人手不足などの社会的な背景に加え、施主のライフスタイルの多様化、急速に進化するIT技術への対応の負担など課題も多い。施主に本当に寄り添った家づくりへ力を発揮することがままならない、と悩みを抱える工務店もあるだろう。そうした工務店の業務を支援するのがパナソニックの工務店向けクラウド「sumgoo(スムグー)」。情報共有・蓄積機能を搭載し、新築からアフター・リフォームまで一気通貫で支援する。同社開発担当の佐藤和基さん、高橋慎司さんに開発の経緯と狙いを聞いた。
地域で持続し発展していく工務店の姿とは
これまで、地域における工務店は、フットワークのよさやその地域を理解した住宅の提供などの長所を生かして、地元の住宅需要に幅広く応え、人々の生活環境を守ってきた。その一方で、業務のあらゆる面で、旧来の「ウチのやり方」のままというケースが多々見られる。「実にもったいないですよね。戸建ての着工数が減っていく中、家を建てるだけでなく、住まう人々の暮らしまで見据えた『家づくり体験』を提供し、その後もお施主様と長期的につながり続けるという考え方への転換が、工務店様に求められる未来の姿ではないでしょうか」。「sumgoo」開発の統括リーダー、佐藤和基さんはこのように語る。
しかし現状は、顧客の要望や価値観の多様化、新築需要の縮小、IT技術の進化など、工務店の課題は多い。「当社がもともと『街の電気屋さん』として地域に関わってきたように、地域で重要なポジションである工務店様に対しても、この経験を通して何かお力添えできればという想いがありました」。こう話すのは「sumgoo」開発チームで企画面を担当した高橋慎司さんだ。
同社は、これまで住宅設備建材や電設資材商品などを通じて住宅業界に貢献し、工務店の家づくりをサポートしてきた。そしてさらに、今の工務店が必要としているピース、すなわち業務のDX化をサポートする新サービスを生み出そうと動き始めたというわけだ。
断片的ではなく、全体的なコミュニケーションが必要
プロジェクトのスタートは2020年10月。佐藤さん、高橋さんをはじめとする開発チームはさっそく、全国各地の工務店にヒアリングを実施。「営業から受注までの流れ、設計、現場管理、引き渡しの後、すべてのフェーズで多種多様な課題があることにあらためて気づかされました」と佐藤さん。たとえば、顧客からの問い合わせに返信が遅れる、営業担当と設計担当との間で情報のやりとりが滞って要望がプランになかなか反映されない……どこの工務店でも聞くような「うまくいかないこと」が膨大にリストアップされた。
「どの悩みも、根幹にあるのはコミュニケーション。そこに“仕組み”を作ることで解決になると感じました」と佐藤さん。施主に対してだけではなく、社内のスタッフ、外部の業者や職人など、家づくりのプロセスに関わる多くの人々と必要な情報を共有していかないと、認識のずれやすれ違いからミスやトラブルを引き起こしてしまう。「情報を共有する仕組みが必要不可欠なんです」(佐藤さん)。しかし、現状では、情報はそれぞれの担当者の胸の内にとどまっている。「その件は〇〇さんじゃないとわからないなあ」「△△さんの進捗どうなっているんだろう」。そんな思いをしたことのある人も多いはずだ。
かつての工務店では、社長、棟梁がトップとなって家づくりを牽引した。個人商店であった時代ではそれでもよかったのだが、現在のように法的に整備され、建築資材も工法も選択肢が増え、性能も精度も設計もハイレベルなものが求められる現代では、個人にかかる負担がきいのはもちろん、そのような属人化は、組織のメリットを活かせていない状態といえる。
「社員のみなさまが個人で抱え込み、業務に忙殺されがちになると、お客様に対する配慮まで気が回らなくなる恐れもあります」(佐藤さん)
正のループを回し、売上向上というゴールへ
会社として施主の希望や期待に応えて家づくりをしているはずが、個人の負荷が高くなり、担当者が生産性を損なっている現状。そのような工務店の各業務を支援することで、施主へよい家・よいサービスが提供できる。そうして次のご紹介やリフォームにつながる、よい循環の“正のループ ”を回していくというのが「sumgoo」のコンセプトだ。
システムのプロトタイプをつくり、ブラッシュアップを重ね、2021年10月にサービス開始。実開発期間は約9か月という短期間で、いち早く工務店さまに使っていただこうと製品化にこぎつけた。現在は、こうした管理システムは他社でも多数開発しているが、「当社の“sumgoo”は業務改善がゴールではありません。従来の製造業としての工務店から、お施主様に寄り添うサービス業への転換を支援するサービスです。その結果、工務店様が未来に渡って売上が上がり、存続し発展する。これが私たちのゴールだと考えています」と佐藤さん。
サービス開始後も更なる改良を怠らない。2022年4月には、中小工事にまつわる管理機能、顧客情報の管理機能を大幅に強化することでリフォーム業務に対応できるようになった。
「工務店様へヒアリングする中で『こういう使い方ができそう』『こう使えば業務をより楽にできる』とイメージいただけた途端、社長の表情がぱぁっと明るくなる。一緒に未来の姿を想像できていると感じられる瞬間です。誰もが手軽に使えて、どの役割の方もやりたいことが実行できる。業務の流れで自然に使ってもらえるツールになってほしい」と高橋さんは手応えを感じているという。
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