日本の住まいに樹脂窓がこれほど採用されると15年前に予測できた人はどれほどいるだろうか。そんななか、YKK APはずっと「樹脂窓があたりまえの世の中をつくりたい」という信念をもって進んできた。樹脂窓「APW」の躍進を支えてきた山田司さんと石川創さんに、樹脂窓のこれまでといま、これからを聞く。
寒冷地向けだった樹脂窓を全国に
石川 実はYKK APと樹脂窓の歴史はかなり古いんですよね。
山田 1982年まで遡ります。ただ、北海道・北東北限定の寒冷地向け商品という位置付けだったので、知らない方は多いでしょうね。当時、北海道の住宅があまりにも寒く、道内で住宅の高性能化を目指す社会運動が起こり、そのニーズに応えるかたちで樹脂窓「プラマード」を生産したのが始まりです。
石川 その後、本来寒冷地向けだった樹脂窓を全国に普及したいという思いで開発したのが「APW330」です。まずは2009年に東北で、翌2010年に関東以西を含む全国で発売しました。
山田 APWは、フレームとガラスを工場で組み立てて完成品の状態で直接現場に配送するという、これまでにない新しいコンセプトが詰まった商品です。商品開発はもちろん、製造ラインを1から構築するのに3年の歳月がかかりました。
東日本大震災が転機に
石川 やっと世に出た「APW330」ですが、残念ながら樹脂窓文化がない東北以西ではなかなか受け入れてもらえませんでした。
山田 それが、2011年の東日本大震災で流れが大きく変わりましたよね。
石川 1つはエネルギーに対する人々の考え方が変わったこと。もう1つは、被災地を中心に長い停電を強いられる暮らしのなかで、高性能な家はそれほど室温が下がらなかった一方、低断熱・低気密な仮設住宅は寒さと結露に悩まされた―そうした情報が伝えられたことで、多くの人が窓を含む住宅の断熱・気密に関心を向けるようになったんです。
「本物」にこだわった
石川 僕らがドイツやスイスに研修に行くようになったのも2011年頃からです。欧州の本格的なトリプルガラスサッシに衝撃を受けたことが、2014年発売の「APW430」につながっていったんですよね。
山田 総厚41㎜もの窓を商品化して大量生産するわけですから、かなり思い切った決断が要りました。
石川 しかも、国内で先陣を切ってトリプルガラスの樹脂窓を製造・販売する以上、「本物」しかつくれない、間違った窓文化をつくるわけにはいかない、というプレッシャーも大きかった。「APW430」はその役割を十分に果たせたと自負していますし、この商品をきっかけに高性能住宅に取り組む実務者や有識者が「YKK APがやっていることは正しい」と認めてくれ、応援してくれるようになったと実感しました。
山田 もっと言うと、「APW430」は本格派の窓であると同時に、日本流の独自の進化も遂げています。大きな特徴は、半外付けの納まりと窓種の豊富さ。また、同じ2014年に「APW330」の防火窓を発売して都市部の樹脂窓需要を後押ししたことも、発売当初は7%しかなかった樹脂窓構成比が右肩上がりで伸びるきっかけになりました。
樹脂窓の価値をエンドユーザーにも
石川 日本じゅうに高性能な窓を普及させること。これがAPW発売当初から一貫して僕らが目指してきた世界です。そのために、まずはプロユーザーに樹脂窓の価値を知ってもらおうと、2012年からAPWフォーラムや各種セミナーを毎年開催してきました。その甲斐あって2016~17年頃から工務店さんの間で「樹脂窓っていいものだよね、必要なものだよね」という共通認識が生まれたのではないでしょうか。
同時に、エンドユーザーにも樹脂窓の価値を届けるために1年がかりで準備を進め、2018年に発行にこぎつけたのが高断熱住宅雑誌『だん』で、昨年からYouTubeチャンネルも始めました。
山田 その間にも商品開発や窓工場の展開はどんどん進めており、「APW430」の内倒し・内開きツーアクション窓や大開口スライディングなど新アイテムを投入しながら、生産ラインの拡充を図っています。YKK APは現在、全国6拠点の窓工場を稼働していますが、全国に樹脂窓を供給するためにはこれだけの数がどうしても必要ですし、ガラス工場を併設したり、同一ラインで多品種の窓を製造したり、かなり難しい課題をクリアしてきたことが、いまとなっては私たちの大きな強みになっています。
APW430 は進化の途上 樹脂窓をあたりまえに
石川 YKK APの樹脂窓の近い未来の話をすると、トリプルガラス化、高付加価値化をより一層進めるということになりそうですね。
山田 APWの窓種はだいぶ揃ってきたので、あとは昨年30%を超えた樹脂窓構成比をいかに100%に近づけるか。おそらく新築に関しては、あと5~10年以内には断熱等性能等級6・7の住宅の割合が大部分を占めるようになるはずで、そのときに「APW430」があたりまえに選ばれる世の中をつくりたいと思っています。
石川 一方で、既存住宅の高断熱化はほとんど進んでおらず、これから開拓すべき重要な市場です。暑い・寒い家の原因の1つは窓にあり、アルミ単板の古い窓を高性能なものに取り替えたり、内窓を付け足すだけでそれらの悩みを解決できることをもっと多くの人に知ってもらう工夫を重ねる必要があります。
山田 そうした課題を達成した先には、これまでにない加飾表現や質感の窓が登場する未来もあるかもしれません。とはいえ「APW430」も現在の姿が完成形ではなく、性能もコストも進化する余地はまだまだあると思っています。
樹脂窓を地域工務店と
石川 この夏からは、今年新設された断熱等性能等級5・6・7に対応する地域工務店さんを応援する取り組みも始めました。APWを採用して高性能な家づくりを行う地域の工務店さんを「取扱地域工務店」として、YKK APの公式ウェブサイトで広く発信することで、エンドユーザーから選ばれるお手伝いをします。
山田 樹脂窓を通じてではありますが、健康で快適で省エネを実現できる高性能住宅をつくって日本の住環境をよくしたいという思いを多くの工務店さんと共有したいと思っています。
*本案内で使用する以下の商品名は、YKK AP(株)の出願・登録商標です。「APW」
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