この連載は、正社員3人程度(大工などの職人は除く)の最少人数で安定した受注を得ている工務店を取材し、経営手法や人気の秘密を探る。そこには縮小化する市場のなかで最適化を図るためのヒントが隠されているはずだ。
今回は岡山県倉敷市で活動するくらしき工務店を紹介する。高性能な躯体をベースに、細部までこだわった緻密な設計を特徴とした家づくりで、経済的に余裕のある顧客を中心に支持を広げている。
※新建ハウジング2019年12月20日号掲載。内容は取材当時のものです。
くらしき工務店の代表である小野順央さんは現在36歳。独立したのは5年前、31歳のときだ。小野さんは高校卒業後、香川大学に進学し、建築を学んだ。卒業後は住宅設計を生業にしようと数社のアトリエ系設計事務所にアプローチ。その1つに首尾よく就職した。だが設計事務所は3年後に代表が亡くなり解散。今度は断熱・耐震と自然素材にこだわった工務店に就職する。
工務店を選んだのは現場に関わりたかったため。設計事務所では実施図面や申請図書の作成などの実務を学べたが、現場に出る機会が少なく、「つくっている」実感が乏しかった。小野さんは面接時から「設計から現場まで一人で担当したい」と工務店の社長に訴えた。その甲斐あってすぐに1つの現場にトータルで関わるようになった。
自分で描いた図面から数量を拾って見積書を作成し、 工程表をまとめて建材や職人の手配をする。それを年間4棟担当する。目まぐるしい日常にはなるが、自分で建物をつくっている実感が得られ、充実していた。
この工務店では社長が基本設計を担当しており、その設計手法に小野さんは影響を受けた。設計事務所のプラン作成は造形的な美しさに重点が置かれたが、社長は耐震や断熱とともに建て主との対話を重視していた。
建て主とのやり取りから要望を聞き出してプランに落とし込む。自分の要望がかたちになっていく過程を眺めているように建て主には感じられ、心が踊る。プラン打ち合わせを通じて建て主の期待は高まり、その頂点で契約に至る。プラン打ち合わせを通じたクロージングの技能を小野さんは自然と身に付けていった。
入社当時は「将来的には独立したい」と考えていた小野さんだが、仕事が楽しく、社長との関係もよかったので、その気持ちは薄れていった。だが入社4年目に社長は株式を大手建設会社に譲渡し、オーナーが変わった。それに伴い会社の体制や雰囲気が変わった。小野さんは再度独立を考え始めた。半年ほど悩んだ末に若いときに独立したほうが失敗してもやり直せると考え、工務店として独立した。
住宅雑誌の広告を賢く利用
独立に際して、小野さんは経営方針をじっくりと考えた。ローコスト住宅では大きな会社に勝てない。まずは家づくりに予算が掛けられる人たちに対象を絞った。その上で年間3棟に絞った。これは・・・・・
この記事は新建ハウジング2019年12月20日号8~9面に掲載しています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。