都会の中に森を取り戻す
隈:庭の中に芝生がなくてはいけないと思っている人も世の中には多くおられると思います。例えば自宅の小さな庭にこれを一つ置いただけで、庭が突然森に変わるみたいな体験を味わっていただけるのではないかと。都会の中に森を取り戻したいという方にも合います。
三浦:「都会の中に森を取り戻す」というのはいいですね。少し建築について話を広げますが。隈さんは以前から「これからは木造の時代だ」と話し、国立競技場をはじめとした木を使う建築を提唱・実践されてきました。今は国産材やCLTが以前に比べると普及してきたと思うのですが、個人的には普及させるためのアイディアがあれば、木造の時代がもっと前に進むはずだと考えています。隈さんは木造の普及を妨げるようなボトルネックを何か感じていらっしゃいますか。さらに普及させるためのアイディアがあればご披露ください。
隈:木造への関心は2000年ぐらいから、世界中で急に高まってきました。一つの大きなきっかけは地球温暖化で、その対策として木に注目が集まったものです。木を使えば使うほど大気中の二酸化炭素を減らすことになり、地球温暖化が防げます。そういったことを世界中の学者が言い始めて、ヨーロッパやアメリカなどの環境先進国で急速に木が使われるようになりました。
日本は木造に関してはもともと先進国でしたが、木造化の流れの中では逆にヨーロッパより遅れています。日本でもここにきてようやく木への関心が高まってきましたし、本来日本人は木が好きで、木が一番向いている民族です。その大きな流れがもう一度日本でも起こると思います。
ネックになっていることがあるとすれば、木は傷みやすいんじゃないかとか、地震に弱いんじゃないかとか、日本人が思っていることです。それは第二次大戦の後に国の政策で「コンクリートにしよう」という動きがあったためです。しかし2000年ぐらいから木が世界的にブームになる中で、木には優れた耐震性があることが分かり、さらに耐久性を強くするための処理も日進月歩で開発されるようになりました。日本でもようやくその流れに追いついてきて、木に高い耐久性を持たせることが可能となりました。
耐震性については、日本ではもともと木が持つ耐震性能を建築物に取り入れていました。そういう意味で本当にネックになっているのは、人々が木に対して昔の観点に縛られていることです。現代の新しい技術を知れば、そもそも木が好きな日本人ですから、そちらに必ず流れていくと僕は思っています。
新しい「木の時代」が訪れる
三浦:技術的にはアップデートされているけれど、クライアントや業界側のイメージなど常識的な部分がアップデートされてないので、そこにギャップがあるということですね。もし、その技術がアップデートされていることを知れば、もっと木を使おうという機運が盛り上がると。
隈:まさにそうです。木を使う機運が盛り上がると値段も落ちてきます。そこに良い循環が生まれます。今はその前夜です。新しい木の時代が生まれて、住宅に限らず都市も含めて木の時代になると思います。
三浦:隈さんが進めておられる木造の最新プロジェクトは何かありますか。
隈:銀座8丁目にあるうちがデザイン監修をした木造のビルの中にAppleストアが入りました。もともと銀座3丁目にあったのですが、ビルの建て替えがありまして。今は環境の時代であるということをAppleがアピールしたいとのことで、その頃に設計していたこの木造ビルへの入居を希望してきました。12階建てのビルの下はほとんどAppleストアです。
三浦:今や世界最先端のIT企業のAppleが、木の建物の中に店舗を構える時代だということですね。
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