植田板金店(岡山県岡山市)は、工務店やハウスメーカーを対象に、隈研吾建築都市設計事務所によるデザイン監修の家具「木庵 テーブル/ベンチ」の発売を開始した。同製品はCLTを用いた4.5畳の小屋「木庵」の製造過程で発生する3層3プライ杉CLT材の端材を使用したもの。材料を余すことなく使い切ることを目的とし、端材を再成形して2種類の家具を展開している。9月16日には、市内のホテルで工務店関係者らを招いたお披露目会を開催。建築家の隈研吾さんがオンライン中継で参加し、本紙発行人の三浦祐成と「地域の木造建築と工務店の可能性」をテーマにディスカッションした。その模様を全文公開する。
家具は徹底的にこだわるべき
三浦:今日はCLTの小屋「木庵」の端材を使った家具について、また地域の木造建築と工務店の可能性に関して、隈さんに話を伺います。
先ほどのお話で、この家具のコンセプトについて大変興味深く伺いました。まずは「木の塊である」という点、そしてこれが「インテリアの中に核を作る」という点です。隈さんが住宅に家具を入れる際に気を付けておられること、何かイメージされていることなど、インテリアについて工務店に向けてのアドバイスがあれば、よろしくお願いいたします。
隈:家具はいわゆるインテリアの中で大事な要素で、家具だけで空間全体が良くも悪くもなります。僕は家具については徹底的にこだわるべきだと思っています。中でも質感にこだわってほしい。家具は人間が最も触るものです。人は建築物そのものにはベタベタとは触りません。しかし家具は腰掛けて体を当てているとか、テーブルの上に紙や食器を置いたりするなど、そこに向かって人間が一番集中するのが家具です。
そこのところが疎かになると、空間自体も駄目になります。逆に言えば、家具が格好良ければ多少の空間の欠点も消してしまいます。ですから今回の家具は「これさえあれば空間全体を引き立てることができる」という思いでデザインしました。
三浦:確かに家具は人がいつも手で触れ、人が集中しているところなので、素材も含めてデザインは大事です。今日来られている工務店は木の家を作られている方が多いので、CLTの迫力ある、木庵の木の家具は相性が良さそうです。
隈:まさしく木の家にぴったりな質感を持っています。今の木の家は、木で作られているのに木の質感が少し足りません。そういう住宅が日本で増えています。ですからこれがあるだけで、木の家が本当に木の家として響いてくれる感じがします。
“薄まった家”の対極にあるもの
三浦:同感です。工務店が作る家には量販型の家具ではなく、こういった家具が置かれるようになればいいなと思います。木庵の小屋についての質問ですが。私は隈さんの「10宅論」(10宅論─10種類の日本人が住む10種類の住宅=ちくま文庫)を愛読していまして、その本が書かれた当時の話にはなりますが、家づくりには10の派閥があり、その派閥について隈さんが紹介されたものでした。ある種、そういったその家づくりを皮肉りながら、これからの家づくりについて説かれた内容でしたが。
私は「小屋派」みたいなものが、これからの派閥の一つになるのではないかと思っています。この小屋というのは隈さんにとってはどのようなイメージなのでしょうか。また、その小屋をライフスタイルに落とし込んだ時に、どういうものになるのか。木庵の小屋をこのように使ってほしいというものがあれば、教えていただけますか。
隈:家というものは、設備も豊かになって面積も大きくなっています。しかし今は水増しされたような家が多く、人間の住まいとしての家が消えて、薄味になってしまったかのような印象があります。
そういう時代の中で木庵は、木の塊の中に自分の体を置くことができ、木の塊の中に自分自身を投げ出せるという意味で、薄まった家の対極にあります。コアな住まいがここでもう一度、再生できるんじゃないかという期待感があるんです。ですから薄まった家では飽き足らない人が木庵でコアな住まいに立ち返り、懐かしさを味わってもらえるのではないかと思います。
三浦:そのようなプリミティブ(根源的)な環境の中に身を置くと人もより豊かに、より人間らしく時間が過ごせるのかなと思います。隈さんとしては、どのような場所に木庵を置いて使ってほしいですか。今は二拠点居住ですとか地域暮らしといった、今までの都会暮らし、今までの家づくりの常識ではない暮らし方が少しずつ増えています。その中でこれが使えそうな可能性を感じます。
隈:木庵を自然の中に置くと最高にはまります。緑の芝生の上にこれが一つあるだけで絵になりますし。森の中にこれがある姿などはとても絵になります。面積が決して大きくない小屋ですが、これを置くだけで周りの自然も含めて自分の家のようになります。二拠点生活が送れない人も、自宅にこの小屋があるだけで自分の生活が倍に、あるいは倍以上ぐらいに膨らむのではないでしょうか。
三浦:木庵の中でも新しいデザインの方は窓が絞られていて、その中でもこもって木の中にその身を沈めるといった感触を味わえそうです。窓が少ない分だけ狭い敷地でも置けそうです。そういった使われ方も想定されていたのですか。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。