日本は今後も海外から木材調達することが可能なのか―。
戦後、1ドル360円の為替固定相場制の時代も含め、全世界から大量の木材を調達し木材輸入大国となった日本だが、情勢が一変している。引き続き外材丸太では米加、ニュージーランド、外材製材では欧州、米加、ロシア、チリなどからまとまった数量が輸入されているが、かつてのような日本に外材が集中するという時代は遠い昔のこととなりつつある。【木材ライター向井千勝】
丸太では、最盛期年間2000万㎥以上が合板用や建築用に輸入された東南アジア産がほぼゼロとなり、年間600万㎥規模で輸入されたロシア産丸太もほぼゼロとなった。製材も東南アジア産が年間10万㎥にも満たない数量に減り込んでいるのをはじめ、最盛期年間800万㎥が輸入された米加産材が2021年は130万㎥程度まで落ち込み、代わって欧州産・ロシア産が製材総輸入の60%以上を占めるまでになった。
引き続き外材製材輸入ではカナダが単一国としては大供給国であるが、同国産も減少に歯止めがかからず、現時点でカナダ産地が日本向け輸出で巻き返す要因は見えない。カナダ製材産地と日本の関係はこのまま収縮し続けるのであろうか。
大幅減が続くカナダ産製材
カナダから日本へ輸出された製材数量は2022年1~6月で1億9960万ボードフィート、㎥換算47万㎥にとどまり、前年同期比31%もの減少となった(別表)。カナダから日本へ輸出される針葉樹製材の主力は2×4工法住宅等に使用されるSPF製材だが、当該期間のSPF製材対日輸出数量は1億2365万ボードフィート(約29万㎥、ノミナル)で同43%減となった。
2×4工法貸家住宅1棟で必要となる製材使用量(2×4コンポーネントへのヒアリング)は、100坪(2階建て計6戸口)で50㎥、1戸当たりでは8~9㎥、ただしここには4×4土台や大引きをはじめとした製材も含まれることから、1階と2階で2×4製材使用量は異なるが、2×4工法用製材だけで考えると1戸当たり7㎥前後と推定される。
2×4工法一戸建て住宅1棟で必要となる製材使用量は30坪の住宅で17~18㎥(木造住宅の建築工法別木材使用比率、平成9年調べ)だが、ここでも土台や大引き等を差し引いた2×4製材使用量は15㎥前後と推定される。
2021年の新設2×4工法住宅着工戸数は9万6018戸、このうち貸家5万1845戸(シェア54%)、持家3万2746戸(同34%)、分譲1万1207戸(同12%)だった。この着工戸数を元に2×4工法用製材使用量を単純加算すると、貸家が36万㎥、持家が49万㎥、分譲も持家並みとして17万㎥、合計102万㎥となる。
杉やホワイトウッドが代替
この数量のすべてをカナダ産SPFで賄っているのではなく、欧州産ホワイトウッド、杉を筆頭とした国産材針葉樹2×4工法用製材もあり、SPF製材価格の暴騰により、欧州材や国産材への代替の動きは活発だ。特に杉等の国産材針葉樹2×4工法用製材に対する引き合いが伸びている。また、ホームセンターで販売されている1×2~6材や2×4~8材などの製材は多くがカナダ産SPFから欧州産ホワイトウッドKD材に移行している。
「杉KD2×4工法用製材の多くは2×4住宅の縦枠材(スタッド、2336mm長など)として使われるようになっているが、ビルダーのなかには横架材として頭つなぎ等に使用するところも出てきた。さすがに16フィート(4.8m)超の横架材で杉2×4工法用製材を使うことは無理があるが、13フィート(3m)までであれば、杉による横架材代替も進み始めている」(2×4プレカット大手)と指摘する。
それにしてもカナダのSPF製材2022年1~6月輸出は30万㎥弱にとどまっており、2021年並みの新設2×4住宅着工とした場合、今のSPF製材供給が下半期も続くようだと今後、需給がひっ迫する恐れがある。そして短納期出荷が可能な杉2×4工法用製材への需要シフトが一層進むかもしれない。
通常であれば秋需期に向け、製材の確保を強化すべき時期だがそうした動きは鈍い。「現時点で品薄気配があるのはSPF2×6スタッドぐらい。原材料調達は何とかなっている」(同)と語る。その背景にあるのはSPF代替として欧州産ホワイトウッド、杉等の国産材針葉樹2×4工法用製材供給力が増えているからと考えられる。
SPF製材の2022年第3四半期(7~9月積み)は2×4~8(Jグレード)で1050ドル(C&F、1000ボードフィート、ノミナル)前後と前期比400ドル前後の大幅下げとなったが、円安の影響もあり引き続き10万円(港渡し、オントラック、㎥、1ドル135円で試算)強の高値に張り付き、第2四半期の高コスト在庫を抱えた関係者は買いを絞り成約量は低調だった。
国産材2×4工法用製材の本格参入は2021年、SPF製材の日本向け価格が急騰したことによる。
2021年夏、日本向けSPF製材は2×4~8(Jグレード)で1800ドル(同)を突破、推定輸入コスト(1ドル110円で試算)は13万5000円強となった。かつてスタッド向け杉2×4工法用製材はSPFが6万円を超えれば競争力が出てくるといわれてきたが、6万円をはるかに上回るSPFの価格急騰で一気に商機が到来した。
ちなみに20年4~6月の円相場平均は1ドル108円、この時のSPF2×4~8(Jグレード)価格は500ドル前後、推定輸入コストは4万円(港渡し、オントラック、㎥)前後に収まり、杉2×4工法用製材に価格競争力はなかった。
欧州産ホワイトウッドKD2×4工法用製材もかつては2×4住宅向けではSPFに対し価格優位性はなく、入荷までのリードタイムが長期となることもあり一部のスペックを除き市場性を獲得するまでには至らなかった。ただSPFと異なり、長さ等の寸法多様性、特に短尺材対応力、またノミナルではなく正寸のメトリック寸法で供給する点が評価され、早くからホームセンター向けではSPF製材のシェアを奪っていった経緯がある。
2021年以降、欧州産ホワイトウッド製材も高騰したが、2022年7~9月期対日輸出価格は米国ドル換算(1000ボードフィート、ノミナル換算)で900ドル弱まで下降、カナダ産SPFに対し200ドル近い価格差をつけてきた。しかもユーロ、ドルともに対円相場で差がなくなっており、為替面でもカナダ産SPFに対し欧州産地の優位性が強まっている。既にSPF製材は杉、欧州材に需要を奪われていたと考えられ、市場にSPF製材の不足感を呼び起こさなかった。
続落する米国製材市況
まもなく2022年第4四半期のカナダ産SPF2×4工法用製材価格交渉が本格化する。注目点は大きく2点。一つは米国製材市況の続落を受け、日本向けJグレード等のドル建て輸出価格をどこまで下げてくるのか、もう一つ、日本側は買い抑制をいつまで継続できるのか。付け加えるならば中長期的にカナダ産地は日本の2×4住宅市場をどのように評価しているのか。
直近のシカゴ商品先物市場における米国製材市況(2022年8月31日)は高値495.5ドル、安値465ドル、仲値477ドル。2022年の最低価格を更新した。米国の市場専門誌は正常な価格帯に入ったと指摘する。米国連邦政府は過熱するインフレ抑制のため、金利政策を変更し一気に金利を押し上げてきた。これを受けて住宅ローン金利も30年物固定で5%前後まで急上昇し、米国の新設住宅需要を鎮静化させている。これが米国製材市況下落の要因だ。
2022年8月最終週のSPF2×4(№2&ベター、ランダムレングス、ブリティッシュ・コロンビア州政府公表)価格は555ドル(工場渡し、1000ボードフィート)、SPFスタッド(PPET、2×4)に至っては400ドル(同)となった。この価格を元にした推定日本向け価格は、内陸から港までの輸送費、会場船運賃、Jグレードプレミアムを加算して1000ドル(C&F、1000ボードフィート)をかなり下回ることになるであろう。
ただ、カナダ産地側がシェア巻き返しを前提に、まとまった幅でドル建て輸出価格を引き下げてくるか、見方の分かれるところだ。日本向け輸出数量の大幅な減少で、日本市場への魅力は一段と後退している。カナダにとって日本市場への輸出比率は3%しかない。上級材の市場としては貴重かもしれないが品質面を含め手間がかかる。
「ある程度の規模で年間契約数量を出してくれれば、価格、寸法明細にも弾力的に応じるし、ETAでの精密な出荷案内を出すこともできる。私たちは提示された計画に基づき生産、出荷、輸送手配を安定的に行うことができる。週単位でETAを受け取ることができれば日本側も手持ち在庫をかなり圧縮し、回転率を向上することができるはずだ」とはカナダのSPF製材輸出事業者の指摘だ。
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