木造軸組プレカット工場の受注は年末に向けて上向くとの見通しが多く聞かれる。上半期は受注で苦戦しプレカット稼働率は伸び悩むケースが少なくなかったが、9月以降12月までのプレカット加工スケジュールは埋まるとの声がもっぱらだ。ただ不安も少なくない。目先の問題としては先高を見越して大量買い付けした構造材、羽柄材在庫が材料コストを高値に張り付かせている点だ。一方、木材製品市況は需給緩和を受けて地合いを軟化させている。今後、製品市況の下げが進むようだと高コストの手持ち在庫との乖離が生じる恐れがある。【木材ライター向井千勝】
大方は過去に経験したことのない木材製品価格高騰と入手難で複数仕入れ先に引き合いを出した結果、仮需的な需要が生まれ、輸入木材製品に端的だが、大量かつ集中入荷した製品が港頭だけでなく、プレカット工場、物流倉庫、販売店等に在庫として積みあがっている。
茨城県内にある首都圏屈指の物流大手の木材製品倉庫は、複数ある同社木材製品倉庫はいずれも満杯となっており、空前の在庫規模だった。
東京15号地に保管する場合、上屋の場合1カ月(3期)900円、近隣他社の荷役会社上屋を利用した場合1カ月(3期)1200~1500円の保管料がかかる。仮に1000立方メートルの輸入製品を保管した場合1カ月で100万円近い保管料が発生する。
回転よく荷物が動けば問題はないが、長期在庫滞留するようであれば現金決済される港頭保管費用に耐えられなくなる。このため、北関東に点在する物流倉庫に移設するなどして、少しでも保管料を節約する必要に迫られ、前記した大手物流倉庫も輸入商社の在庫で満杯になってしまった。
輸入木材は在庫急増
首都圏の輸入木材製品の玄関口である東京15号地は20万立方メートル弱と空前の輸入木材製品在庫であふれている。特に欧州産針葉樹製材・構造用集成材は中国ハブ港でのロックダウンの影響もあって遅れていた契約分が一気に入荷し在庫を急増させている。
一部KD製品が上屋内に全く空きがなく一時的に野積みされたことで、担当荷役会社に抗議したとの話も聞く。首都圏の中堅木材製品販社ではスポット輸入した国産合板代替の中国産針葉樹構造用合板、既存羽柄材代替の非構造用LVLが全く動かなくなり自社倉庫を占有してしまったことから、円安状況下にも関わらず損切り販売も視野に入れ始めたという。
プレカットにとり、工務店ルートの受注が慢性的に低迷している点も悩みの種だ。健闘している工務店もあり、工務店ルートの受注状況には二極化傾向が見られるが、受注に占めるパワービルダー系、戸建て分譲系依存が高まっている。
「工務店の受注状況には不安がある」
プレカット事業者は足元の受注が比較的堅調なことから工場稼働率も当面、高水準で推移するとの見方だが、「工務店ルート全体の今後のプレカット受注状況には不安がある。受注減のにおいがプンプンする。杉KD構造材を筆頭に木材製品価格が軟化しており、供給不安要因が目白押しの針葉樹構造用合板も価格が落ち着き中国産などは反落しているが、工務店ルートの受注不振が少なからず影響しているのでは」(関東地区大手プレカット)と指摘。強気だった木材製品市況に変化を感じとっている。同社も昨年の今頃はプレカット受注制限を実施、一見からの引き合いは基本的に断っていた。
工務店経営は厳しい。日本政策金融公庫が定期的に調査している「小企業の経営指標」で「木造建築工事業」の2020年度調査によると、調査対象数1694件のうち、黒字かつ自己資本プラス企業は722件と半数に満たず、売上高経常利益率平均値(償却前)は-0.1%、平均自己資本比率は-25.7%と極めて厳しい内容だった。平均完成工事高比率内訳は材料費18.8%、外注費(プレカット等)41.5%、人件費18.2%、諸経費14.5%、金融費用0.9%で、合計93.9%となっている。
完成工事高総利益率は27.8%だが、売上高営業利益率-2.2%という状況で、諸費用が経営に重くのしかかっているのが実情だ。建築リフォーム工事業、大工工事業もほぼ同様の状況で、外注費率が比較的小さい大工工事業は人件費率が27%と高い。
上記経営指標は融資時期2020年4月~12月・決算期19年7月以降(2020年度)調査だが、21年に入り木材製品価格急騰、22年から本格化した建材・住設の大幅値上げが怒涛の如く押し寄せ、さらに外注費、人件費も増加していることから、1棟当たり完成工事額をよほど引き上げないことには深刻な不採算に陥ることになる。
東日本不動産流通機構の首都圏新築戸建て住宅調査によると1都3県の新築戸建て住宅平均価格は21年1~3月期が3588万円だったのに対し22年4~6月期は4064万円と13%上昇した。とくに東京都は同4563万円から5020万円と5000万円台に入った。こうした新築戸建て住宅成約価格の上昇は、建材・住設が全面高となった今夏以降、さらに上昇してくるのは確実だ。見方を変えると深刻な新設住宅需要下押し要因である。
住宅コスト急上昇
分譲ビルダー苦戦
今後新設木造住宅需要はどうなるのか。既に7カ月連続で新設持ち家着工戸数の前年比割れが続いているが、この影響が現場に出てくるのはこれからだ。木材製品価格高騰にとどまらず、建材・住設がほぼすべて大幅値上げとなっており、住宅コストは急激に上昇してくる。東京23区内で土地を含めて新築戸建て住宅を取得しようとすれば1億円をゆうに超えてくるといわれる。東京23区内での分譲展開を売りにしていた住宅大手も分譲用地取得で苦戦しているといわれ、東京近郊への進出に方向を変えているようだ。
構造材加工に占める木造軸組プレカット比率は既に推定95%以上になっており、加工能力ベースでは飽和段階に入っている。今後、新設木造住宅需要が減少した場合、プレカット加工における需給緩和の拡大が懸念され、生産性の優劣が競争力格差として出てくる公算が強い。
計画的に生産性の高い構造材加工設備へ更新できる事業者はごく限られており、以前に実施した設備投資償却がまだ完了していないケースも多い。過当競争が確実視されるなかで新規設備投資を行うという経営判断は現実的でないかもしれない。スケールメリットを含めた生産性格差は成熟期を迎えた木造軸組プレカット産業に淘汰という新たな局面をもたらす。
職人不足の危機感が足りない
改めてプレカットというものの強みを考えてみる必要がある。プレカットには住宅会社、工務店、設計から実需に基づいた住宅の設計情報が入る。これまでは構造材加工にとどまっていたが、そうした情報をもとに、羽柄材、構造用合板などに加工領域を広げてきた経緯がある。そうであれば加工を通じてさらにできることはある。耐火ボード、断熱材、外壁材加工は既にプレカット化が進んでいる。建て方支援は多くのプレカットが取り込んでいる。
加工にとどまらず、建材・住設の調達から設置、さらに配線・配管等調達・施工に関する業務も可能性はある。既に行われている確認申請や構造計算等の支援・代行を筆頭に、今後、建築基準法4号特例見直しに伴う新規事業構築、断熱性能に関する支援事業等も実需に基づいた住宅設計情報を土台に進めていくことは十分可能だ。こうした生の住宅設計情報をビッグデータ化することもプレカット産業の可能性の一つだ。
現実にはプレカット各社の設計インターフェースに互換性がなく、本来の意味でのビッグデータ化は困難だが、これが実現できれば製材事業者、さらには素材生産事業者との連携は全く別のものとなってくる。
大工に代表される建築に携わる職人不足と高齢化に対する解決策もプレカットにあると考える。多くの工務店は今のところ、職人確保は何とかなっているというにとどまり、決定的な職人不足という近い将来への危機感が不足していると感じるが、職人が確保できなくなった段階で経営は多端する。
この問題も住宅等建築の総合加工も可能なプレカットが打開策の鍵を握っている。構造材、下地材、開口部材、断熱材、耐火材料、防水シート、外壁材まで組み込んだ木造軸組のフルパネル化は今後、職人不足問題への最も確かな解決策といえる。
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