世界最大の林産物輸出国であるロシアの製材、木質ボード、木質ペレット等の欧州市場向け輸出数量が大幅に減少し始めた。EU(欧州連合)によるロシアに対する経済制裁パッケージ第5弾に盛り込まれたロシア産木材輸入停止措置が7月10日から始動したためだ。EU市場を失ったロシアはその膨大な林産物生産能力を今後、どのようにして新たな需要と結び付けていくのか―。【木材ライター向井千勝】
ロシアは大量の林産物余剰を抱え、同国からの供給が停止された欧州市場は林産物需給がひっ迫するという極めて人為的なサプライチェーンの大混乱が起きている。欧州とロシアの関係はロシア産天然ガス貿易をめぐるエネルギー問題により端的だが、林産物においてもロシア国内は下落し、欧州市場は高騰するという歪な構図が起きている。
ロシアは懸命にEU以外の市場開拓を進めるであろうが、既に供給の主導権を握る輸出国との新市場における軋轢は避けようもない。おそらくロシア産林産物はダンピングしてでも市場をこじ開けるのではないか。特に中国との関係が注目される。
高騰するEU木材製品市場
2022年6月、EUの製材輸入は前年比64%減の63万8000m3となった。4月のEUによるロシアへの第5次経済制裁パッケージのなかで7月10日以降、EUはロシア及びベラルーシ産木材の輸入を停止すると決定しており、EUのロシア産製材輸入は今後、さらに劇的な減少になると予想される。
この問題は2つだ。ひとつはロシアからの輸入が停止されたことでEU市場はロシア材に依存していた林産物をどこから、どのように代替供給していくかだ。もう一つはEU市場を失ったロシア国内の木材産業の行方だ。
2022年6月のEUによるロシア産製材輸入量は25万m3(前年比43%減)、ウクライナからの輸入も11万m3で同41%減少した。ロシア産製材輸入の大幅減少に伴い製材需給ひっ迫を起こしたEU市場の製材価格は倍以上に急騰している。
ロシア産製材輸出平均価格も30%上昇しており、ロシアとしては輸出数量の大幅減単価の上昇でかろうじて補った形だ。
特に英国はロシアへの経済制裁で最も強硬な姿勢を示しており、ロシア産製材輸入は2022年1~6月で3万m3強と前年同期比91%減少した。もっとも平均価格は71%上昇している。英国の2022年1~6月製材輸入は63万m3(同18%減)にとどまり、スウェーデンが24万4000m3で最大の供給国になった。欧州林産各国も欧州域内の製材需給引き締まりを受けて思うように輸出ができなかったとみることができる。
脱EU市場を模索するロシア
2022年7月10日からEUの経済制裁パッケージが始動したことで、欧州市場に依拠してきたロシア北西部の製材事業所は原材料や製材在庫を積み増し、減産や工場一時閉鎖を余儀なくされている。
しかし、期近に事態の好転は考えにくく、いつまでも生産削減を続けることは困難なことから、EU市場依存の大きなロシア北西部の製材産業は、中国をはじめとしたアジア、中東、北アフリカ等EU以外の市場開拓に動きだすのではないか。
これらの市場への輸出についてはロシア産材の価格下落が予想され、欧州産地が主導権を握る中東、北アフリカ市場では欧州産針葉樹製材との競合激化が予想される。中国も近年、欧州産地の重要な市場に成長している。
ペレット輸出停止で木材製品廃材の行き場もなくなる
ロシア産合板のEUへの輸出も大幅に減少しはじめた。2022年1~6月にロシアからEUに輸出された合板数量は60万3000m3で同31%減となった。ただし、平均輸出価格は70%上昇している。ロシア産合板も7月10日以降EUへの輸出が困難になる。
ロシア国内の合板工場は稼働率が大幅に低下しており、2022年7月のロシア国内の合板生産高は42%減の212万m3に減少した(ロススタット集計)。また、OSBを含むパーティクルボード、MDF等の繊維板も大幅な生産減になっている。
製材をはじめ各種木材製品製造過程で発生する廃材等を原材料とした木質ペレットの分野でもロシアは大生産国だ。このペレットは主に欧州に供給され、各種バイオマス燃料となる。2021年、ロシア産木質ペレットの80%、180万トンがEUに出荷されている。
ロシアの木質ペレット生産は22年1~7月累計で前年同期比35%減となった。木質ペレット需要家はFSC、PEFCといった国際的な森林認証製品を要望するケースが少なくないが、両認証制度ともにロシア産を紛争木材として認証の付与を停止している。この影響も大きい。
英国への出荷は2022年5月の段階でゼロとなっている。7月10日以降、EUが輸入停止となることからさらに出荷が落ち込むのは確実だが、直近の問題はEU向け木質ペレット需要を失うことでオガ粉等の製材工場等の廃材を付加価値活用することが難しくなる点だ。製材廃材在庫増は主製品製造に直結する問題である。滞留したオガ粉の醗酵が原因となり火災を誘発するおそれもある。地中に埋め立て廃棄するのも同様に危険だ。
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