長年にわたり米国はカナダ産針葉樹製材の輸入に対し厳しい対応を行っている。この貿易係争が始まって既に半世紀近い。米国側の主張は、カナダ産針葉樹製材の米国市場への大量流入が米国の針葉樹製材産業を圧迫しているというもので、批判の根拠はカナダ産針葉樹製材が公有林(州有林等)から供給される原木の段階でカナダの各州政府により不当に助成されているというものだ。この主張は一貫して変わらない。これまでの経緯を振り返りながら、市場に与える影響を分析する。【木材ライター向井千勝】
カナダ政府は国際司法裁判所や世界貿易機関(WTO)などを通じ、不当な助成は行われていないと反論している。国際的にはカナダ側の主張が認められた経緯がある。しかしながら、米国市場に製材需要の多くを依存しているカナダ側としては最終的には現実路線を余儀なくされ、米国による輸入関税ではなく、あくまでカナダ側が自主規制する形で輸出税を徴収し、この輸出税をカナダ国内に還元する方式を落としどころとしてきた。
カナダ側が輸出税を
賦課することで決着か
今回の係争でも最終的にはカナダ側が輸出税を賦課することで決着すると考えられる。一方、米国製材市況は2021年、底値比で4倍にもなる過去に経験のない歴史的な価格高騰を起こし、全米ホームビルダー協会(NAHB)などはカナダ産針葉樹製材の輸入に対し関税を賦課することは住宅コストを押し上げる要因であり、見直す必要があるとの提言を行っている。
2022年8月4日、米国商務省はカナダ産針葉樹製材に賦課しているアンチダンピング関税(AD)および相殺関税(CVD)について、第3次行政審査の最終結果を発表。審査の対象となった大多数の企業の輸出品への適用輸入税率が現行の17.91%から8.59%へ引き下げられることになった。
暫定輸入関税が18%弱と極めて高率であったことは驚きだ。その後、商務省は2022年1月、第3次行政審査の予備評価を行い、大多数の企業に対する適用税率を11.64%へ低下させる案を公表していたが、今回の最終決定では税率をさらに引き下げたことにはなる。昨今の米国市場の製材価格高騰に顕著なインフレ問題をある程度意識した輸入税率ともいえる。
米国製材連合会は「米国の製造業が活性化し、米国の住宅を建設するために米国の労働者によってより多くの米国産木材が生産されることになる」と述べ、関税賦課の維持を歓迎している。
同連合の主張は、カナダ公有林(州有林)からの伐採価格(スタンページ)は市場価格より低く設定されており、公有林から出材された原木を原材料とするカナダの針葉樹製材生産者は米国生産者に対し不当に有利な立場にあり、自由市場の下で運営されている米国製材業界を不利な立場に追い込んでいるというものだ。
さらに「米国の製材産業は2016年に貿易訴訟が提起されて以来、生産能力を拡大するために多額の投資を行い年間平均30億ボードフィートの追加生産量を生み出してきた。米国製材連合会は、米国企業が米国製木材に投資し全体的な供給を増やすことを可能にすることにより、国内サプライチェーンを強化するための米国貿易法の継続的な執行を支持し、貿易法の執行を積極的に追求し続ける」と述べている。
カナダ産針葉樹製材への
不公平な課税に“失望”
これに対しカナダのメアリー・エング国際貿易・輸出振興・中小企業・経済開発相は同日、「カナダは米国に輸出されているカナダ産針葉樹製材に不当かつ不公平な関税を課し続けていることに失望している。大多数の輸出業者にとって関税率は現行水準より下がるものの、真に公正な結果を得るには、米国がカナダ産針葉樹材への根拠のない関税の適用を停止することだ」との声明を出した。
同大臣はまた「これらの関税はカナダの産業とその労働者に不当な損害を与えてきた。さらに米国の消費者に対する税金のようなもので、供給難とインフレ圧力が高まる中、住宅購入状況を悪化させている」と述べ、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)に基づく紛争解決プロセスの開始などを通じて、第3次行政審査の最終結果に異議を唱える予定であることも明らかにした。
カナダ最大の林業・木材産業州であるブリティッシュコロンビア州関係者は、こう話す。
Pages: 1 2
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。