2014年ごろから住まいの“本質改善”を行うフルリノベーションに取り組むlivearth(岐阜県養老町)社長の大橋利紀さんに、本質改善型リノベーションの要件や地域工務店におけるビジネスとしての可能性などについて聞いた。新建ハウジングでは、9月から工務店(経営者・実務者)向けに開講する「スケルトンフルリノベ・リフォーム実践塾」の講師として大橋さんを招へい、現場研修なども交えながら戦略・ノウハウを伝える。
以前からスクラップアンドビルドや空き家の問題が指摘され、近年ではSDGsやエシカル消費といった観点から「いまあるものを大切に使っていく」ことが叫ばれてきたが、その流れを受けて住宅業界でリフォーム・リノベーションが浸透したかと言えば、決してそうではない。
ところが最近では、ウクライナショックやそれに伴うエネルギー問題の深刻化、生活必需品をも含むあらゆるモノの価格の高騰など「変わらざるを得ない状況」となっており、日本の社会においては“新品至上主義”からの転換期が訪れている。
視点を変えれば、いまは持続可能な社会構築に向けて、既存のものをリユース、もしくはアップグレードしながら大切に使っていくという、もともとは日本人が持っていた文化を復活させるチャンスだ。
住宅業界に置き換えてみればリユースとは、まさにリフォーム・リノベーションのこと。地域工務店としては、この機会をとらえて、キッチンなど水まわりを取り換えるだけの“部品交換型リフォーム”や外壁や屋根を塗装し直すだけの“お色直しリフォーム”といった従来型のスタイルではなく、アップユース的な“本質改善型リノベーション”を本格的に生活者に提案していくべきだ。
良質な木の家づくりと親和性の高いリノベ事業
本質改善型リノベーションとは、耐震や断熱・省エネ性、耐久性などの「基本性能=数値化できる心地よさ」に加えて、四季を味わう暮らしや陰影のある空間、手触りの良い素材といった「感性デザイン=情緒的な心地よさ」と、家事が楽になる動線、使い勝手の良い収納計画などの「基本デザイン=生活のしやすさ」の3分野を満たす総合的なリフォームを指す。
シンプルに言えば、新築住宅と変わらない手法を当てはめるということ。難易度は高いが、もともとデザインや性能に優れる良質な木の家づくりを手がけている工務店にとっては、親和性の高いカテゴリーとも言える。
耐震や断熱・省エネなど性能を担保するための計算・シミュレーションが必須なのも新築と変わらない。当社は全て自社で行っているが、ハードルが上がる場合は会社の状況により足りないスキルを専門的な設計事務所など外注に頼る選択肢もある。
ただし、特にインスペクションについては、いま普及している中古流通を促すための診断では足りず、精度の高い2次診断、3次診断を行う必要があり、実践を通じて非破壊検査ならではのノウハウを蓄積していくことが求められる。
つくり手としての探求心も
資材ショックにより新築住宅の価格が高騰している。それに対して人々の収入が上がっているわけではなく、さらに中長期的には新築着工戸数の先細りも見えている。新築注文住宅でより高みを目指すのか、マスを狙い低価格帯で棟数をこなすのか、いずれにしても「いままで通り」にいかないことは明白で、「誰に何を届けるのか」を見直すタイミングが来ている。そんな中で、たくさんあるストック(既存住宅)を有効活用していくことは、社会にとっても地域工務店にとっても非常に有益なビジネスになり得るはずだ。
数は多くなくても地域に需要があったことと、当時、周囲にやっているところがなかったこともあり、2014年ごろから本質改善型リノベーションを掲げて取り組んできた。社会的な使命感と「どうやったら新築と同じレベルでやれるか」という、つくり手としての探求心もあった。
現在は「思い入れのある建物を引き継ぎたい」「祖父母が住んでいた空き家を活用したい」といった人たちなど、築30年ぐらいを中心に築15年ぐらいの築浅から築100年といった古民家まで幅広く手がけ、時には工事費3000万円を超えるような物件もある。宣伝はしていないがブランドとして少しずつ浸透し、年間5~6棟をコンスタントに受注できており、自社の事業としては柱の1つとなっている。
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