「耐震や断熱の性能を高める“本質改善型”のリノベーションは、地域工務店の事業の柱になる」。「しなのいえ工房」のブランド名で住宅事業を展開するアグリトライ(長野県長野市)常務・ハウジング部長の小嶋健二さんは、そう言い切る。
同社は今年2月、同市吉田にあった築30年、木造2階建て・延べ床面積36坪の住宅をフルリノベーションした常設のモデルハウスをオープン。これまでに工事費1000万円を超える3件のリノベ受注につながっており、今年7月から始まる来期(2022年度)は、同規模以上の受注を10件程度まで伸ばす計画だ。性能、デザイン、素材の全てにこだわる家づくりを展開するなかで、資材価格の高騰などを受けて新築住宅の価格が高止まりする市況を見極めながら、顧客の住まいと暮らしの選択肢を広げるため、リノベの本格的な事業化を急ぐ。
小嶋さんは、リノベを事業化していくうえで、「体感型のモデルハウスの整備はマストだ」と訴える。生活者(顧客)にとって新築以上に「リノベとはどんなことをするのか、リノベによりどうなるのかをイメージしにくい」ためだ。小嶋さんは、リノベの事業化に向けて「需要は確実にあるが潜在化している。体感拠点を設けて、自分たちで提案を広げていくことにより、需要を掘り起こしていくことが必要」と指摘する。
築30年をフルリノベ
そこで同社では、体験宿泊もできる常設の体感型モデルハウスを整備するため、築30年・36坪の既存住宅を土地を含めて1200万円で取得し、耐震、断熱性能の向上を含む本質改善型のフルリノベーションを行った。小嶋さんは「当社では新築を含めて常設のモデルハウスを持っていなかったため、新築も兼ねる体感拠点として整備した。リノベの効果もより劇的に感じてほしいということもあり、性能もデザインも素材もやり切った」と話す。いまのところ同モデルハウスは、4~5年ほど活用した後、4000万円程度で売却する方針だ。
耐震性能については、壁量(耐力壁)を増やし、評点をリノベ前の0.69から1.57に引き上げた。断熱性能は、自社が新築で標準としているHEAT20にするとG2.5程度と言えるUA値0.31W/m2K(省エネ基準地域区分4)。これによりシミュレーションでは、年間の冷暖房費(電気代)がリノベ前は33万円だったのを5万円に抑えることができるという。オープンな間取りにした家全体の冷暖房を2.8kW(10畳用)のエアコン2台で賄う。
断熱については、外壁は既存のモルタルを残して、そこに高性能グラスウール(16K)を105mm厚で付加断熱し、内側は4寸角の柱間に同120mm厚を充填。2階の天井は、同(18K)400mm厚で吹き込んだ。床は基本的には既存の床を壊さず上にスタイロフォーム50mm厚を敷いて断熱し、その上に合板を張った。一部、壊さざるを得ないエリアについては、グラスウールで断熱した。
開口部は新築で標準仕様としているエクセルシャノンの樹脂サッシ・トリプルガラスを採用。これについて小嶋さんは「このESクリアのガラスは可視光透過率が高く非常に明るいうえ、日射熱を取得しやすいが室内の熱は逃がしにくいというエクセレントなガラス」と評価する。
デザイン・暮らしやすさにもこだわり
デザインや暮らしやすさについてもこだわった。景観性やコモンスペース(公共の場)の道路からの見え方も考慮し、南面の2階バルコニーを撤去、駐車場の車しか見えない1階和室の開口部も壁にして、無垢のスギ板張りの“美しい表情(外観)”を生み出した。小嶋さんは「急勾配の既存の屋根の形状を生かしながら意匠的に美しく見せるよう考えた」と話す。外壁の24mm厚のスギ板については「初めからある程度、経年変化したような美しさを醸し出すように、社内では“しなのグレー”と名付けているオリジナルカラーで調色したノンロット(浸透性オイルテイン)を塗って仕上げた」(小嶋さん)。
南に面する既存のリビングからは、物置と近接する隣家しか見えなかったことから、物置を撤去して無垢の板塀で囲って視線を遮りながらウッドデッキをつくり、そのウッドデッキのコーナーの1畳ほどのスペースに小庭(グリーンスポット)を設けてアオダモなどを植栽した。これにより天井を撤去して吹き抜けの空間とし、高窓から自然光がふんだんに差し込む新しいリビングからは、視線を気にすることなく緑を眺めたり、タープを張ったデッキに出てお茶や読書などを楽しむこともできる。
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