19年間、コンサルティング会社にてリフォーム業界向けコンサルティングに従事。
立教大学ビジネススクールにて、リフォーム業界の競争戦略を研究。
地球の会 賛助会員。
MBA(経営学修士)
「リノベーション事業はどのようにして業績をアップさせるのか、わからない・・・」仕事柄、何度もお聞きしてきたことです。各パーツに終始しがちで全体設計という全体観としてつかみづらい、組織体系や営業オペレーションが目に見えにくい、これまで言語化もされてこなかったこと等が理由かもしれません。
私は戸建リノベーションビジネスの研究を通じて、業績アップの戦略と戦術を考え、クライアント企業に伝えてきました。成長スピードは各社で差があるのが現状ですが、新築主体の工務店さんが参入2年目でリノベ事業年商3億円を超え、3年目で4億円、あるいは5億円に達する例も着実に増えています。
同時に、リノベ案件の創出だけに部分最適させてクライアント企業の業績アップが実現するわけではないことも事実で、やはり事業化させるためには、全体設計という視点が欠かせないとつくづく感じています。
2012年頃から着手し、今もなお、さらに精度を高められるよう、改善を繰り返していますが、クライアント企業とPDCAを重ねた結果、到達形に向かっていく手順に関しては、ほぼ明確になっています。戸建リノベーションが未成熟な市場だからこそ、先進事例にはルール化(事業化の共通項)と言える要素が含有されています。そこで今回、チカラボのページ上で私が主に携わる商品戦略、集客戦略、店舗戦略、営業戦略の部分にフォーカスして、お伝えしていきます。
欠かせない全体設計という視点
前提として、理念をベースに強みを活かす全体設計があります。その上で整合性、一貫性がある顧客接点をはじめ、下記要素を最適化することが肝要です。以下に一つひとつ解説します。
商品戦略
まず、商品化というとらえ方をして、数々のベンチマークから、性能向上を基本にリノベーション工事単価2000万円と想定し、何件受注するか決めていただいています。工事単価1200万円や1500万円では性能向上とは言えません。2000万円と決めることで、顧客層が浮かび上がり、自社が推奨する断熱レベル、耐震レベルもおのずと絞られてきます。これをパッケージとして完成させる必要はなく、標準仕様という位置づけになります。
当然、採用する仕様が何でもよいわけではなく、ここでよく言われる差別化という観点も必要です。「差別化=競合が徹底していないお客様にとって良いこと」という視点で見ていきます。その点を押えた上で、会社や社員が正しいと信じ、共有していることを推奨していくべきで提供価値や存在意義にもつながります。競合に関してはポジショニング上、近い位置で展開する「新築そっくりさん」(2022年3月時点の事業年商1,057億円)の強みと弱みは把握しておくべきでしょう。
そして、ここで一番避けたいのは「価格勝負」です。あくまでも「価値/価格」というバランスの中で顧客層に対する適正価格という考え方を重視します。近年、性能という機能的価値、デザインや地域の暮らしという情緒的価値をバランスよく発信し、トータルの価値を高めている参考例も増えてきました。
もう一つ避けるべきことは「小さな工事から増改築まで」という総合リフォーム発想です。何千円から何千万円まで幅広いリフォーム業界において、フルライン戦略は時流に適応していないという判断です。
リノベーションという領域は発展途上ですが、取り巻くリフォーム業界のライフサイクルが成熟期にあるからです。後発であればなおさらです。クライアント企業にも、戸建リノベーション事業を展開すると決めた以上、水まわりリフォーム等単品工事の訴求は一切NGと伝えてきました。実際、毎年、成長するクライアント企業は例外なく、建築リテラシーや施工力等強みを活かすかたちで戸建リノベーション領域に集中特化しています。「単品工事は捨てる」「性能がともなわない全面リフォームも追わない」、中には「新築事業を捨てる」と決断し、業態転換に成功された事例もあります。
集客戦略
集客に関しては目に見えやすいこともあり、テクニック論になりがちですが、前述の通り、顧客像や想定工事単価を設定するからこそ、集客媒体や発信する内容も絞られてきます。価格重視なのか、家を残したいというニーズなのか想定する顧客像という質を押えなければなりません。いくら来場予約組数が多くても、予算1000万円といった価格にシビアな顧客層が中心という状態では本来あるべきマーケティングとは言えず、改善策が必要です。
水まわりや外壁ならメニュー化や安さ感、LDK業態ならデザイン重視になるでしょうが、戸建リノベーション、性能向上を訴求するなら、建築のプロ共感、施工中の発信に比重を置き、媒体毎の案件化イメージ(質と量)を固めておくことが大切です。また、潜在ニーズを掘り起こすための悩み訴求、今すぐ客のアクションを促すための企画など狙う顧客の段階によって訴求や媒体を最適化させることも必要です。「着眼大局、着手小局」で手法より先に、こうした全体設計と集客をリンクさせることで、すべきことが明確になり、事業化もスムーズになります。
店舗戦略
次は店舗です。そもそも戸建リノベーションのような高価格帯で高関与(検討期間が長い)領域の場合、来店型が基本です。古くは自動車業界でのショールーム戦略、新築業界でのモデルハウス戦略から大きく遅れて、リフォーム業界での来店型は、チラシ反響型のレスポンス率が半減した2002年頃から浸透したと言われています。さらに2010年頃から、専門特化した領域に店舗を適合させるというセオリーが生まれました。
戸建リノベーションの領域では商圏人口やコンセプトによって、大きく2つ、空間演出したスタジオ型とリノベーションモデルハウス型に分けられます。施工実例として、よりリアルなのが後者です。さらに性能向上を体感できる、実証できるという点でも後者は大きな選択肢の一つであり、近年注目を集めています。モデルハウスを開設する場合はフラッグシップという位置づけを推奨していますが、モデルハウス自体が「点」にならず、1つの顧客接点として機能させる全体設計が重要です。
営業戦略
営業戦略においては、属人的と言われる戸建リノベーションの領域でマンパワー依存度を軽減する環境づくりをしていきます。営業フローを構築し、事業部全員で使える支援ツールやセミナースライドを自社の強みをベースに作成しましょう。戸建リノベーションの営業フローは他のリフォーム領域と違い顧客接点が多い点を踏まえて構築し、ランクアップの仕組みを浸透・定着させることができるかどうかもカギとなります(歩留まりが高まるという役割において、前述の店舗やYouTube等各タッチポイントも営業の武器の一つです)。
一方、概算をいかに提示するかという課題が残るかもしれませんが、この点については、標準仕様と施工条件をあらかじめ設定した資料が補助ツールとなります。こうした要素も、対象となる顧客像、想定工事単価を設定しているため、ツール内容が決まってくるはずです。あとは、ツールの活用含め自社で決めた営業フローに沿って、初回面談やクロージング(設計契約時点)のロープレを繰り返し、精度を高めていきます。建築リテラシーを活かしながら、特に商品力、集客力、店舗力、営業(組織)力において、いかに一貫性を持たせながら強化できるかという視点が必要です。
さいごに
経営者にとって「高い視座で時流を見極め、先手を打つこと」「事業化(お金がまわるため)の全体設計をつくること」は大きな役割の一つです。ぜひ、次なるステージへ一歩を踏み出すヒントにしていただければ幸いです。現時点の日本ではドイツのような官民が連動するダイナミックなストック住宅シフトへの政策は感じられませんが、戸建リノベーション事業が一過性のテーマでないこと、潜在市場が莫大で競合が限られることは衆知の通りです。ぜひ1社でも多く、強みを活かせるという工務店さんが市場を主体的に掘り起こし、地域で独自ポジションを築いていただくことを願っております。最後まで読んでいただき、有難うございました。
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