Zoomによる名匠家の合同現場パトロールに「参加」した。名匠家とはSAREX工務店で横浜、多摩地域4社が合同して、現場付加価値を上げるため相互に情報を出し合い、競争力を上げていくという目的のネットワークである。
今年は、現場に行くのは時節柄むりなのではないか、ということで、それならば4社の監督にリアルタイムでZoomを使って、名匠家合同現場パトロールチェックリストの記載項目に該当する現場を映しつつ、監督として現場状況の留意点などをプレゼンしてもらった。昨年までは各社の現場が点在しているために、現地到着までの移動時間がかかり、一日仕事であった。それが、コロナ禍の中での現場状況を今回はリモートパトロールという形で実施してみた。
もちろん、現場に立つことは重要であり、得るものも大きい。が、名匠家活動10年は伊達ではない。現場品質が上がっているのだ。道具類も整然としていて、画面越しに、やることが、当たり前化してきていることをうかがわせる。それゆえに、このリモートパトロールで、十分だなと思わせた。
リモートパトロール第1回ということもあり、現場レポーター役の監督によって映し出される動画は、画面がぶれたり、揺れたりして、船酔い感覚に襲われそうになったが、パソコンの画面に映し出されるライブ映像は極めて鮮明。仮設トイレなども扉を開けてチェック。外周からチェック開始。チェックリストの項目は、「安全について/①現場の安全7項目 ②作業員の安全6項目」「清掃・整理整頓について/①清掃6項目 ②整理整頓5項目」「現場マナーについて/①遵守事項6項目 ②その他4項目」となっている。
これらの評点を付けるには、やはりそれなりの情報が必要となるが、今の名匠家の現場であればZoomからの観察で十分いける。スマホでこれができちゃうのだから、ぐーたらになっている私などにとっては、各社の現場品質状況確認は、もうリモートで十分ではないかと思わせた。Zoom会議などはこなしているが、現場チェックがここまでやれるとは。
各社20分の持ち時間で、パトロール。質疑などを現場と行いわずか90分足らずで終わった。このリモートによる方法ならば完成見学会に比べて注目をあまり引かない施工現場見学会が、足を運ばずスマホやパソコンで見えるのだから、ここで知識収集を欲する潜在客にとってはハードルは低くなる。そして、こうしたプロセスを見せていくことで、計画顧客の満足度を高めることに再度つなげることができるように思われた。
しかも、このZoomは録画機能がついているのだから、動画としてアップすることもできる。完成見学会であれば、なおのことだろう。ああ、こうしてリモートの世界が工務店の現場にも道具として入ってくるのだな、と当たり前のことを改めて思った。
だが、工務店がリモート対応体制を整える以上に早く顧客側が日常的にワーキングツールとして使いこなしていることも十分にあり得る。そうした客層は、これまでの密度の濃い集客によって関係性を持つ手法で開発してきた客層と、リモートで十分という顧客感覚は異なる。
客が、関係性の取り方を変えてきている。コロナ禍で露出した情報システムというインフラにより工務店との新たな距離感を保ったまま本客になる。この緩そうに見える動きは、今回のコロナ禍で見ることができる、消費者の強度である。その強度が新たな距離感を生み出す源泉とも言える。この強度とは、情報受発信力であり、キュレーション能力を持っているということであり、この強度と向き合うためにも、新たな陣形、人材を保持することが大事だなとリモートパトロールに参加しつつ思った。
※本記事は新建ハウジング2020年7月30日号に掲載した記事を再編したもので所属、肩書き、年齢、表現などは当時のままです。
野辺公一(のべ・こういち)
住宅系コンサルタント。住宅専門のシンクタンク・オプコード研究所所長。SAREX(住環境価値向上事業協同組合)で工務店力向上ワークショップを主宰。
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