今月3日から続いた記録的な豪雨で、河川の氾濫や浸水害、土砂災害など甚大な被害を受けた東北・北陸地方では、浸水した住宅に流れ込んだ泥の撤去や清掃作業が、地域住民やボランティアによって行われている。工務店にとっては、被災したオーナー(OB顧客)宅の応急復旧作業などが重要なミッションだ。一刻も早い生活再建が重要であるが、この一連の作業では留意すべき点が多い。
本稿では、今回の豪雨災害を受けて、九州を中心に全国を襲った「令和2年7月豪雨」の際に、災害復旧の留意事項について、災害支援団体「風組関東」代表の小林直樹さんにインタビュー(初出:2020年7月20日号16面)した記事を緊急で全文公開する。
※本記事は本紙の掲載記事を再編。所属、肩書き、表現など当時のまま
復旧の前に被害状況の記録を
オーナーや地域住民の住宅が水害にあった場合、復旧の前に工務店や建設会社が見落としがちなのが、写真撮影による被害状況の記録だ。これを忘れてしまうことで、被災状況に応じて国から支援を受けるための「罹災証明書」を受けることが難しくなる。「記録を残していなかった」ことで、顧客とトラブルになっているケースも多いため、注意してほしい。
被災住宅の現場に入る時は、感染リスクを防ぐため、一般的なマスクではなく、医療用としても推奨されている「N95」、もしくは「DS2」というマスクを着用するのがベスト。一般的なマスクだと、粒子や細菌が通過してしまう。
必要だと思う「3倍」の撮影を
現場に入って、まず確認すべきポイントは、大きく分けると①構造体、②床下・床上・壁、となる。それぞれの破損・浸水状況のチェックと記録を行う。被災直後は、現場が劣悪な環境で撮影そのものがうまくいかないことが多いため、自分が必要だと思う「3倍の枚数」を撮影しておくことを勧める。
①と②に共通する撮影ポイントとして、まず挙げられるのが建物の全景。一方向だけだと被害状況が客観的に判断できないので、可能な限り4方向から撮影する。緊急時はメジャーを持ち合わせていないことが多いので、撮影時に人物を横に立たせて撮影することで、浸水の高さを証明できる。被害箇所も必ず撮影する。被害箇所ごとに遠景と近景のセットで撮る。できれば被害箇所がわかるように、指をさしながら撮るといい。被害規模によって異なるが、概ね撮影する箇所は外壁、屋根、基礎、内壁、天井、床、ドア、ふすま、窓、キッチン、浴室、トイレとなる。
撮影した写真を「罹災証明申請書」に添えて市町村に提出すると、行政の担当者が現地調査を実施する。その結果によって「罹災証明書」が発行されると、国の支援制度の対象となる。
侵入泥の速やかな撤去を
住宅が一度でも浸水したら、床下に水や泥が入り込んでいないか確認する。水や泥がたまっている場合は、早めに取り除かないと、カビが発生し、健康被害を及ぼす恐れがある。これまで被災地では、床下の結露によって腐朽した土台の木部や、汚泥に含まれる雑菌やカビが原因の呼吸器官系の健康被害の事例が多数報告されている。
被災地では下水や生活用水から、想像以上に危険なウイルスが住宅内に流れ込む。感染症になるリスクを十分に考慮したうえで作業を進めることが重要だ。和室、洋室それぞれで確認すべき箇所と手順に気をつけながら作業してほしい。浸水した床や壁を放置するとカビなどが発生し、悪臭を放つ。とくに断熱材がある場合は早めに撤去することが大切だ。被害がなさそうな壁も、中を開いてみると、カビで埋め尽くされていることが多い。
床下にグラスウールやロックウールなど綿状の断熱材を用いて施工している住宅が床上浸水してしまった場合は、浸水した全ての断熱材を撤去する。水を含んでいないように見えても、床材との間や材料の気泡などに水が浸み込みカビの温床となる。シロアリの発生源にもなり、家全体を著しく劣化させる。スタイロフォームはしっかりと洗浄すれば、再利用できる場合もあるため、専門家の助言を受けたうえで判断してほしい。
消毒薬の選定には注意必要
住宅が浸水した後は、カビや細菌が繁殖してしまうため、いち早く洗浄や消毒を行う。その際には、消毒薬の選定に注意が必要。市町村の災害特設サイトや企業のホームページなどに「クレゾール」や「消石灰」が紹介されているが、防疫や家屋保全の観点から、消毒効果はなく、エビデンスもないうえに、人体に影響を及ぼす危険性もある。例えばクレゾールは、希釈量を誤って使用すると、大気中の濃度が高くなったり、建材に付着した刺激臭が取れず、頭痛や呼吸器官系に悪影響を及ぼす危険性もある。風組関東では、「ベンザルコニウム塩化物消毒用液10%」「消毒用アルコール」「次亜塩素酸ナトリウム」を推奨しており、部位や使い方などにも注意している。
洗浄、消毒の後は、徹底的な乾燥が必要。被害状況にもよるが、目安は最低1カ月半。可能であれば24時間乾燥で、扇風機ではなく、風量を確保できるダクトファンを回し続けてほしい。床下の点検口などを開放し、できるだけ外気を送り込むようにするほか、晴れた日は窓も開けて、風通しをよくしてほしい。 (談)
災害支援団体・風組関東(かぜくみかんとう) 代表、任意組織・震災がつなぐ全国ネットワーク幹事。これまで日本各地の自然災害被災地において技術支援に特化した活動を行ってきた。特に被災家屋復旧の過程において、多業種にわたる専門的な知識と技術、資機材を用い、被災者の負担を軽減する方法を提案、実践している。
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