木の家はモダン。エコで、健康、省エネだ。既存の建物の8割以上が組積造(石やレンガ、コンクリート)というドイツであるが、1990年代からの木造建築の技術向上や健康上の措置、そして木造業界の積極的なアピールにより、木の家のポジティブなイメージが社会に随分と定着した感がある。しかし「木の家は燃えやすい」という先入観は、いまだに根強く残っている。しかし、それは単なるイメージに過ぎない。
木が豊富にあり、木造建築の伝統もある筆者が住むシュヴァルツヴァルトのような山間地域でも、戦後の新築では、丈夫でがっしりして「燃えにくい」、組積造の建物を選択する家主が大半であった。その主な理由は、先の戦争のとき、ドイツではたくさんの都市が空襲を受け、とりわけ古い木組みの建物が勢いよく燃えた記憶が、市民社会のなかに深く刻まれたことだった。
木造建築の技術もイメージも随分と向上した現在でも、「木の家を建てたいけど火事が心配…」と躊躇する家主は少なくない。火事の心配は、現在唯一残っている木の家に対する「不安」である。「不安はタチの悪い助言者」という言い回しがドイツではある。
木造建築業界は、木の建築の防火性能についてもここ数十年、盛んな実証試験や物理的な論理に基づいた広報活動などにより、不安の払拭に努めてきた。木造建築物が組積造、その他の建築物よりも火事に遭いやすい、という懸念は、前述した歴史的な惨事の記憶と、木というマテリアルが、石やレンガ、コンクリートに比べて、引火しやすい、ということから来ている。
後者は拭いようがない物理的事実であるが、統計的には、木の建物が他の建物より頻繁に火事に遭っているということはまったくない。大半の火事の原因は、人為的な過失や電気装置などの欠陥である。そのような人のミスや欠陥機器によって発生した火元は、室内にある本、カーテン、壁紙、家具などに移って広がる。これは、木造でも組積造でも同様に起こることである。
木は安全に燃える
「木は安全に燃える」。消防士たちの間で古くから言い継がれている格言である。ミュンヘン工科大学消防チームの現場リーダーであるユルゲン・ヴェットラウファー氏は、木造の火災は「大きな問題ではない」と断言している。「特別な消火技術は必要ない。消火に使うのは水だけでいい」と。
木というマテリアルは、外側から内側へ「ゆっくり」と燃える。それは木が燃える際に表面に炭化が起こり・・・・・
この記事は最新号『新建ハウジング紙面 7月10日号 4面』に掲載しています。
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