世界の高樹齢大径木資源が少なくなっている。日本でも官木と呼ばれた国有林から供給される天然木大径木の伐採、販売がほとんどできなくなっている。世界的にも伐採・販売、貿易規制が強化され、ますます供給が厳しくなっている。高樹齢大径木は造作や建具、家具、数寄屋建てや社寺建築をはじめとする伝統建築の主要な材料となってきた歴史がある。
最近、埼玉県の工務店がシトカスプルースの造作用となる材料を探していたが、ここにきて価格が2倍近くに高騰したという。地場の工務店にとって、大手と差別化する重要ポイントの一つはこだわりの材料を住宅部材に使っていくことで、シトカスプルースは愛用樹種の一つと語る。
長年、枠材や造作、障子の桟をはじめとした建具、家庭雑貨、楽器等の主要な原材料となってきた高樹齢大径木の代表格、北米産シトカスプルースを例に高樹齢大径木に何が起きているのか。
「1年半は伐採できない」-日本側に通告
カナダのブリティッシュコロンビア州(BC州)政府は2021年11月2日、州内の原生林(オールドグロース)州有林を保護対象として伐採を一時停止するとの方針を打ち出し、2022年4月、170万haの伐採が当面停止されることになった。
170万haといえば日本の森林面積(約2500万ヘクタール)の7%に相当し、BC州林業界に激震が走った。BC州沿岸の素材生産最大手は「1年半は伐採できない」と日本側に通告している。
カナダ林産業審議会(COFI)は「年間1000万立方メートルの州有林丸太生産減となり、複数の工場が閉鎖し約18,000人の雇用喪失と年間4億カナダドルの減収となる。BC州林産業界に深く壊滅的な影響をもたらすものだ」と反論している。
最も影響を受けるのはシトカスプルースをはじめとする大径木原生林の多くを占めるBC州沿岸部地域だ。
シトカスプルースはアラスカ州、BC州沿岸を代表する大径木だ。色味が白く木理が通直で柾挽きでも幅広材が取得できること、木質がおとなしく肌目が緻密で加工性に優れていることから日本でも様々な建具や造作、まな板や彫刻材などに用いられてきた。
ピアノ、ギターに代表される高級楽器用材では高樹齢のシトカスプルースが必須と言われる。
2021年はじめ、アラスカ州の丸太輸出最大手であるシアラスカティンバーが木材事業からの撤収を表明し丸太輸出が終了した。近年でも年間30万立方メートルのシトカスプルース、ベイツガ、米杉、米ヒバ丸太が極東に輸出され、特に日本向けにはシトカスプルースの最上級丸太が供給されてきた。
シアラスカティンバーの決定を受けて日本側はBC州沿岸での代替集材に力を入れ始めたが、その矢先のBC州政府による大径木原生林伐採の大規模一時停止である。
欧州産や北米産に代替の動きも
日本・中国・台湾で深刻な原材料不足の懸念
シトカスプルースは、戦後日本の住宅等建築材では欠くことのできない樹種であった。大径木で木質がおとなしく幅広板が取得できることから多様な造作用、建具、家具用途に用いられ、今も同樹種を好む工務店・大工は少なくない。
鹿沼(栃木県)、や小川町(埼玉県)の木製建具産地では主要な原材料となっていた。また、北海道では構造材としても使われてきた。
今回の事態でシトカスプルース原材料の新規入手は、さらに厳しさを増していく。当面、国内の流通在庫に頼るしかなさそうだ。欧州産や北米産ホワイトスプルースで代替する動きも予想される。今後、日本、中国、台湾では深刻な原材料不足に陥ると考えられる。
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