全国初の地方自治体による「太陽光パネル税」として注目された岡山県美作市の「事業用発電パネル税」。このほど総務省で新設への同意が見送られ、市に再度メガソーラー事業者と再協議するよう通達した。
同省地方財政審議会が「市と特定納税義務者との間で話し合いが不足している」と判断。地方自治体が条例により新設する税目は「法定外税」となり、導入には総務大臣の同意が求められる。同市は太陽光発電設備の建設に伴う土砂災害・河川洪水、鳥獣による農業被害などへの対策費用に充てるため、昨年12月21日に同パネル税条例を公布し2023年度の施行を目指していた。
同省の担当者は「今回の件は新たに税を課すものであり、本来あらかじめ特定納税義務者の理解を得ておくのが望ましい。現状として相互理解が得られておらず、同意・不同意の判断をする段階に至っていなかった。国が政策の善し悪しを判断して同意しなかったわけではない」と説明。「美作市は徴収した税を防災対策などに使うと話し、事業者は県の指導に従ってあらゆる対策を実施したと主張している。この点が両者で最も大きく食い違っていた」という。
法定外税は同意を要する協議制で、特定納税義務者に係る税収割合が高い場合には、条例制定前に意見を聴取する制度がある。そして、①住民の負担が著しく過重となる、②地方団体間の物流に重大な障害を与える、③国の経済施策に照らして適当でない――のいずれかに該当する場合は「同意できないもの」と判断される。
災害リスクへの”住民不安”がきっかけに
美作市は、晴れの日が国内で最も多いとされる岡山県の北東部に位置することから、市内には事業用太陽光発電設備が数多く建設されている。FIT認定を受けた10kw以上の施設は2021年12年末時点で536件。このうち50kw未満は511件、50kw以上は25件。
2000kwを超えるメガソーラー施設は4件で、作東メガソーラー発電所の2エリア、美作武蔵メガソーラー発電所(パシフィコ・エナジー)、旭メガソーラー美作発電所(旭電業)が稼働している。中でも作東発電所は約400ha(東京ドーム87個分)の面積を有し、発電出力は約260Mwと国内最大規模だ。
太陽光発電事業は、法人事業税などにより自治体への税収が見込める一方で、山林開発に伴う景観への影響や動植物生息環境の悪化、近年多発する集中豪雨による河川氾濫や土石流などの災害リスクを伴う。特に「平成30年7月豪雨」以降、土砂崩れや強風、地震による太陽光パネルの崩落・飛散事故が相次いだことから、太陽光発電設備の設置を規制する自治体が増えている。
美作市のある岡山県も、2019年7月「太陽光発電施設の安全な導入を促進する条例」を制定(10月施行)。50kw以上の太陽光発電施設を建設する際の安全施策を定めた。
作東発電所は条例以前に建設を開始しているため同基準に準じていないが、県土保全条例の開発許可(2017年3月)を得ているほか、追加で調整池を合計21カ所設置し、県基準(24時間総雨量想定206mm)の1.8倍の貯水容量を確保している。これらの調整池は「平成30年7月豪雨」ではまだ工事中であったものの、下流域の負担軽減につながる調整力を発揮している。
市が「事業用発電パネル税」の新設に踏み切ったのは、水防法の改正(2017年6月)に伴い、市内を流れる吉井川系が県の洪水浸水予定区域に指定され(2918年3月)、洪水浸水に至る降雨条件が変更されたことがきっかけだった。
同改正では洪水氾濫による人的被害の軽減を図ることを目的に、降雨条件を10~100年に1回程度起こると想定される「計画降雨量」から、1000年に1回程度起こる「想定最大規模降雨」に変更している。これにより同地域の基準となる降雨想定は、24時間総雨量で206mmから601mmになった。
萩原誠司市長は「事業者は県基準の1.5倍(以上の貯水容量)と言うが、県想定の約半分でしかない」と強調する。その差分の対策を「事業用発電パネル税」の税収で補い、市民の安全を確保したいという主張だ。
7月豪雨により地域住民の不安が高まったことも、市長の決意を後押しした。前述のメガソーラーの建設地は2009年の台風第9号による土砂災害で死者を出した地域も含まれていたことから、県との事前協議の段階から地元住民の反対運動が激しかったという。
こうした住民の不安を払拭するために、2018年9月「大規模太陽光発電事業に係る地域社会に対する影響評価条例」を制定。事業開始の90日前までに、地域住民への環境的悪影響がないことを示す書類を提出することを事業者の責務とした。これに続いて市は「事業用発電パネル税」の新設に向けて着手した。
Pages: 1 2
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。