資源インフレによる資材高騰など、先行き不透明な時代に生き残るには何が必要なのか。
長野県のトップ工務店・アルプスピアホーム代表取締役の石田正也氏と新潟県の設計事務所SIA・製材所UC Factory社長の石田伸一氏の対談をお届けする。part1は家づくりの企画について考察する。
低金利政策がパワービルダーを生んだ
石田正也(以下、MI) 当社は1999年創業で私は2002年に入社している。振返ると住宅市場は2004年ごろに大きく変わった。(図1)それまでは住宅金融公庫の融資を利用する建て主が多かったが、銀行の住宅ローンの利用者が主力になった。2000年に日銀のゼロ金利政策が始まり、住宅ローンが歴史的な低金利になった影響だ。
融資の資条件も緩くなった。公庫融資には勤続3年と自己資金2割という縛りがあり、20代の建て主にはハードルが高かった。銀行の融資から自己資金2割の縛りがなくなり、勤続年数も1年に短縮された。その結果、20代でも住宅ローンが組めるようになり、フルローンで新築するケースが一般化した。建て主の平均年齢は一気に5、6才下がり、若い建て主に対してローコスト住宅を提案するパワービルダーが登場。一気に棟数を増やした。
石田伸一(以下、SI) 当時、私は新潟県内の工務店に務めていたが、従来の「家をつくる顧客」とは異なる「家を買う顧客」が誕生したと感じていた。
MI そのころアルプスピアホーム(以下、APH)は「未来基準」というコンセプトのもと、住宅価格の割にグレードの高い設備を標準仕様とする方針を掲げていた。その費用対効果の高さが支持され、成長することができた。2005〜2007年は本体価格が1500万〜1600万円、地盤改良や消費税を入れて2100万〜2200万円の事例が多かった。価格帯としては「中の中」だ。
このころはハウスメーカーと圧倒的な価格差があり、それが差別化要因になっていたが、法改正や市場を反映して性能や仕様を高めていったため、徐々に価格が上がっていった。
パワービルダーがデザイン住宅を持ち込む
SI 2004年ごろから全国的にローコストビルダーが急成長を始め、総合展示場にも進出するようになる。彼らがハウスメーカーと戦う手法として、低価格とともにデザインを用いるようになり、キューブ型住宅を生み出した。(図2)このデザイン住宅が売れたことから、デザイン性を強調した住宅が展示場に目立つようになってきた。インテリアでは見切りを目立たないように納めた白い空間が流行。「シンプルモダン」と呼ばれる(図3)ようになった。
デザインに注目が集まる状況をふまえて、素材やディテールにこだわった本格的なデザイン住宅を提案すると「中の上」以上の価格帯の顧客を取れると考えた。そこで、アルヴァ・アアルト設計の「ルイ・カレ邸」をオマージュした住宅を提案した。トーヨーキッチンのスタイリッシュなキッチンをLDK中央に配置して、モダンな印象を強調した。この住宅は価格の点でボリュームゾーン向けの提案ではなかったが、競合がいなかったためモデルハウスの来場者や実物件の完成見学会の反響はよく、棟数が伸びていった。
MI 当社の場合、その時期はデザインをそれほど重視していなかった。APHの価格帯である「中の中」においては、デザインは受注の決定打にはなり得ないと判断していたためだ。
当時は「APHは坪50万円代なのに坪70万円代のハウスメーカーより設備の仕様がよい」という明確な差別化要因があったので、設備の仕様を高めることに注力していた。当社のモデルハウスは住宅展示場で2〜3軒目に見学することが多かったので、その点でも設備の仕様を訴求するやり方とは相性がよかった。
リーマンショックで「おうち志向」に
SI 2008年ごろになると、自然素材を多用したオーガニック系の提案が支持されるようになってきた。その背景には2008年9月のリーマンショック(図4)がある。これにより景気が冷え込み、自宅で寛ぐことを楽しむ「おうち志向」が生まれた。住まいの居心地が重視にされるようになったので、質感のよい自然素材の支持が広がった。一方、所得が伸び悩んだことと女性の社会進出もあって共働きが増えたため「家事楽」志向も強くなっていった。(図5)
MI 2010年以降、デザイン住宅の一部に自然素材を組み合わせる提案が流行った。自然素材にこだわっているというよりは、トレンドを押さえるために採用していた商品が多かったように思う。
当時の「中の中」の市場では「デザインは大事だけど過度にスタイリッシュだと疲れる」という声が多かった。APHはデザインが強調されすぎないように温かみのある雰囲気を重視していた・・・・・
続きは、『新建ハウジング別冊・月刊アーキテクトビルダー最新号(2022年6月号)/超スマート経営』(2022年5月30日発行)P.90~に掲載しています。
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