これまで自然素材である木や土が、蓄熱や断熱、調湿の面で優れていることを話してきたが、木や土は、消臭、空気清浄、抗・除菌という生活衛生上の大きなメリットも有している。これらは昔の人たちが経験的、直感的に知っていたことだが、近年、科学的な裏付けが付与されてきている。歴史的な背景を振り返りながら解説する。
「うちの唯一の欠点は、翌日のチーズフォンデュがおいしくないことだよ」。
接着剤も釘やビスも使わない無垢の木材積層パネルの壁、タタキの土床と、伝統的な自然素材でシンプルに建てた自宅兼事務所に暮らすスイスの建築士の言葉だ。私は最初、彼が言っていることの意味がわからなかったので「どういうこと?」と聞き返すと、「木や土がチーズの香ばしい匂いをすぐに取ってしまうから、翌日に残りのフォンデュを温めて食べても、匂いがないのでまずいんだ」と説明してくれた。
消化作用
チーズの香ばしい匂いを取ってしまうのは主に、木材が発する揮発性の植物精油による作用である。その主要成分はテルペン類と呼ばれる有機化合物で、最近、欧州でも注目されている日本生まれの言葉「森林浴」の主要作用物質である。総称して「フィトンチッド」とも言われている。生きている樹木だけでなく、製材加工された木材からもフィトンチッドが発せられる。
この揮発性の植物精油が、チーズの匂いだけでなく、さまざまな臭気を消す、もしくは弱めるのは、①化学反応による無臭物質化、②相殺作用(干渉による無臭化)、③マスキング効果(植物オイルの芳香成分が臭気を消す)だと言われている。
消臭はまた、前回の記事で紹介した多孔性のマテリアルである木や土による高い吸湿作用によっても起こる。というのは・・・・
この記事は最新号『新建ハウジング紙面 5月30日号 6面』に掲載しています。
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