東京都は5月24日、都のエネルギー環境計画について議論する環境審議会を開き、「環境確保条例」改正案の中間答申をまとめた。この中で、中小規模新築建物に太陽光発電パネルの設置を義務づける方針を明示した。対象は都内への分譲・注文住宅供給が、延床面積で年間2万平方メートル以上の事業者(ハウスメーカーなど)。日照条件などを考慮した義務量(総量)を事業者ごとに設定し、柔軟に対応できる仕組みを整える。
都では条例改正についての検討会を、昨年11月から7回にわたって実施。条例に太陽光パネル義務化などの項目を加えることにより、エネルギー危機への備えや、2030年「カーボンハーフ」(再エネ比率50%)、2050年「ゼロエミッション東京」実現に向けた取り組みを加速させたい考え。6月24日以降にパブリックコメントのとりまとめを行った上で、9月頃までをめどとして条例の改正手続きに着手する。
義務化については、最小限の対象規模で一定の効果が得られるよう、個人ではなく一定規模以上の事業者に義務を課す。主に大手住宅メーカー約50社を対象とすることで、都内中小規模新築建物の年間着工4.5万件のうち半数程度に適用できる見込み。設備費が住宅価格に上乗せされることを想定し、建築主の意向に配慮するほか、日照不足などの建物については対象から除外する。努力義務であることから、未達成の場合も事業者への罰則は設けない方針。
設置義務量は、事業者単位で「総量」として計算。たとえば「年間供給棟数」が500棟で、「設置可能率」が85%の区域、「1棟当たりの設備容量」が2kWの場合、事業者の義務量は、500棟×85%×2kW=「850kW」となる。設置可能率は日当たりの影響を考慮し、区域ごとに設定することを視野に入れている。太陽光発電以外の再エネ利用(太陽熱、地中熱利用など)も評価に加える。具体的な設置可能率・義務量は、専門家らが検討した上で定める。
対象拡大も検討
義務対象となる事業者について、環境局の担当者は「大手ハウスメーカーは、太陽光パネルの設置を標準仕様として、住宅を大量に供給することが可能だ。そこで一定の効果を得るために、まず大手メーカーを義務化の対象とした。今後、普及状況を見ながら対象の拡大を検討したい」と話す。
住宅購入者の負担を軽減する対策として、太陽光パネル設置に伴う補助金を支給する。都では令和元年度から、省エネ性能に優れた「東京ゼロエミ住宅」を新築する建築主(個人・事業者)に対し、戸建て住宅20~210万円/戸、集合住宅20万円~170万円/戸の助成を実施(※実施年度により補助額は異なる)。
加えて、設置する太陽光発電システムの発電出力数1kwに付き10~12万円(上限額:500万円)、蓄電池機器費の2分の1に相当する額(上限額:太陽光発電出力の2倍×10万円/戸または80万円/戸)を助成している。都の試算によると、「補助金を活用することで、設備設置費用は約6年で回収できる」という。
さらに今後、エネルギー需給がひっ迫することも想定し、令和4年度補正予算により補助金の上限を引上げ、一定の条件を満たした場合に不動産取得税を全額減免する。
中小事業者向けには、「地産地消型再エネ増強プロジェクト」(補助率3分の2、最大1億円)、「電力調達構築事業」(同2分の1、最大2億円)などにより支援を行う。予算的に太陽光パネルの設置が難しい住宅購入者には、初期費用ゼロで導入できる民間ビジネス(リース、電力販売、屋根借りなど)を推奨する。
設置済みの建物、わずか4%
都が戸建て住宅などへの太陽光発電パネルの設置を急ぐ背景には、屋根に太陽光発電システムや太陽熱利用システムの設置が可能とされる都内の住宅棟数の割合が、全体の約85%(※東京都環境局調査)に上るにも関わらず、設置済みの建物が約4%(島しょ部除く)にとどまっていることが挙げられる。
都内で新築される建物は年間5万棟(うち住宅は4.3万棟)で、2050年時点では現建物ストックの約半数(うち住宅が7割程度)が新築の建物に置き換わる見込み。「高断熱化・高効率設備」「再エネ設備」「蓄電池等」を新築住宅の標準仕様とすることは、エネルギー自給率の向上、災害対応力向上にもつながるとして、事業者や都民に理解を求めていく。
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