三浦 水野さんから松尾さんに「家のブランド価値の本質は?」という質問を頂いています。
水野 住宅はもっと時間軸で見ていいんじゃないかと思っていて。使い捨てで、30年もてばあとは更地にしてしまうんだ、という家。田舎にあって、東京に働きに出ている子どもが将来は帰ってきて一緒に住んで土地を引き継いでほしい、という家。「バリュー住宅」と「ブランド住宅」のつくり分けを業界として明確にしたほうがいいんじゃないかと。
極端に言えば、200年もつ家と50年もつ家があったとして、200年もつ家の持ち主が「子どもがいまは東京で働いているけど、自分がリタイアしたら家は子どもに引き取ってもらって、自分は施設に入って終活するからいいんだ」とか、そういう会話をもっと生き生きとできるように。値段じゃない、時間なんですよ。これが中小の住宅会社さんにできる最高の技なんじゃないかと。地方の活性化ってある意味、中小の住宅会社さんが鍵を握っているんじゃないかと個人的には思っています。
三浦 まったく同意です。バリュー住宅のほうは大きな会社が担いつつ、ブランド住宅は工務店が担っていく、と。松尾さん、いかかでしょう。
松尾 例えば某グループは、「1500万円の建築コスト」みたいな住宅を見事に確立しています。でもその逆、少なくとも30歳で建てて90歳まであまり大きく手を入れずに住める、時間軸を持った家は確立していないのが現状で。30年でダメになる住宅とかぶるようなポジションにしかいけていないというのが、住宅業界の大きな問題だと思っています。賃金も下がって生計が成り立たないようになってきているから、バリュー住宅じゃない限りは、そこまでのことは実現する義務みたいなものがあるのではないかと。
水野 いま世界で日本だけがデフレで景気が悪くなっている。日本人は「安さが美徳」っていう誤った概念を持っているんです。本来は、同じものをつくるのであれば、高く売れるもののほうがいい技術であり、いい能力であるはずなのに。この感覚を大事にしているのがドイツ人。腕が上がっていいものにはいい値段を払う。
じゃあなにをもっていいものと決めるのかは、今度はそれがプロの仕事。仮に私は家のプロデューサーだったら、家をつくるときはお客さまの息子さんも入れてプランをつくる。そうするとその段階で、息子さんに「将来はこの家に帰ってきて住むんだ」っていう潜在的な意識付けができる。松尾さんや私は「ライフスタイルパートナー」をつくるわけだから、人の心や生活感までいっしょにつくっちゃおうと。こういう仕事の仕方があると思うんだけど。
松尾 世代の変わり目、50代後半から60代前半の方って、結構自身の思い込みで「こんな家にしてください」って言われることもあるのですが、その前提を崩すところから入っていきます。「いまってすごい変わり目ですよね。息子さん帰ってきますか?」とか。どう転んでも大丈夫なように設計しておくっていうのは、家の耐久性と同じくらい重要なことだと思っています。
水野 もともと日本人は「親と一緒に建てた家」という感覚を持っていました。ところがいまはアメリカナイズされて、そういった共感性を失うとか、安ければいいっていう感覚が増えてきた。もちろん大手企業はそこに入っていくと思うけど、中小企業の住宅産業者は、会社それぞれが「匠」になってほしい。「匠」というのは「人の心までつくった商品づくり」だよ、と伝えたいです。
松尾 時代はものすごく変わってきていますよね。毎日勉強です。
三浦 プロの仕事とはなにか、ものづくりの神髄とはどこにあるのか。本質的なお話をお聞きできたように思います。水野さん、本日はありがとうございました。
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