住宅に要求される性能の水準は高まる一方だ。住まい手や社会にとってはいいことだが、つくり手目線では制約が増えたとも考えられる。構造は今や耐震等級3がデファクトスタンダードとなり、プランに苦心する設計者も多いだろう。しかし、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所を主宰する鈴木淳さんは、性能と意匠を両立させることが「設計力」だと説く。鈴木さんに、プレイヤー目線でそのコツを語ってもらった。
ネイティブディメンションズ一級建築士事務所[新潟県新潟市]
1973年新潟市生まれ。
工務店、ゼネコンなどを経て2008年に独立。
換気を含めた熱損失合計を100W/K程度に設定した外皮性能と、許容応力度計算による多雪区域耐震等級2以上を組み合わせた延べ床面積20坪前後の住宅に特化した設計を行っている
構造計算した家は住まい手よし、つくり手よし
なぜ構造計算が必要なのでしょうか。大前提として、建築基準法の第1章第1条にある「国民の生命、健康及び財産の保護」を正しく解釈し、命と財産を守ることは、私を含めたすべての建築士に課せられた責任です。そもそも4号特例は、確認申請時に構造計算書の添付が不要なだけ。決して壁量計算等を含む構造計算をしなくてよい、ということではありません。
私自身、自分で設計した住宅の安全性に対する純粋な興味はあるし、住宅設計を通じて感謝されたい。自分の設計した建物が地震で倒壊して、万が一誰かが命を落としたら、間違いなく一生後悔するでしょう。そんな後悔は絶対にしたくないのも、構造計算を必ず行う理由です。
構造計算の結果は、いざという時にならないと確かめにくいから、興味も薄れるかもしれません。しかし私自身の経験で言えば、構造計算をするようになってから、塗り壁のひび割れが明らかに減り、その後のメンテナンスが楽になりました。
精度の向上も要因のひとつでしょうし、強風や車の振動による揺れに強くなったせいでもあるでしょう。つくり手目線では、構造計算は、寿命や維持管理にも貢献する要素なのです。
後戻りできないから構造にしわ寄せ
工務店の設計プロセスが、後戻りしにくい流れ作業になっているように見受けられます。スケジュールが厳密に決まっており、担当者から次の担当者にどんどん作業が移っていくため、手戻りがしづらく、川下ほど責任も重くなります。
構造の検討は本来、川上に位置すべき作業ですが、川下の作業になってしまっているのが現状でしょう・・・・・
【残り1850文字、写真5点ほか】
この記事は、『新建ハウジング別冊・月刊アーキテクトビルダー最新号(2022年5月号)/超耐震 技術解説』(2022年5月10日発行)P.11~に掲載しています。
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