住宅業界は、新築市場が確実に縮小していく業界です。しかし新築が無くなることはありません。強い企業は残っていき、競合他社がいなくなれば、その地域で優位性を保てるようになります。大切になってくるのが『ES⇒CS⇒企業の発展』という善の循環です。工務店経営にどう落とし込んだらいいのか。詳しく解説していきます。【住宅産業塾 佐野郁夫】
佐野郁夫
日菱企画株式会社 常務取締役 住宅産業塾コンサルタント
木質パネル工法の住宅メーカーに入社後、研究所、開発部門にて住宅の性能、構造や大臣認定取得に関わる業務に従事。その後、日菱企画株式会社/住宅産業塾にて事務局長として住宅産業塾を運営。現在、魅せる現場づくり、魅せる現場コンテスト、現場診断・指導、業務改善指導に携わるほか、日菱企画グループのコンサルティング全般をまとめている
『ES⇒CS⇒企業の発展』を平たく言うと、「顧客・地域に信頼される住宅会社になる」ということです。そのキーワードは「信頼」です。
この信頼とは何でしょう? 信頼とは「あの会社に任せれば良い家づくりができるよね」とか「あの会社なら大丈夫だね」という安心感です。これからは常に新規客を一から探すよりも、お客様からの紹介や会社の評判を聞いて来店されるほうが、契約により早く確実になります。つまり企業の発展のためにおこなうことは、お客様に喜んでいただく「CS(顧客満足)」というのが大きな軸になるのです。
CSはどんな業種でもどんな会社でも、普通に存在する概念です。しかし、お客様の満足には「とても暖かくて住み心地がいい」「デザイン性が優れてうれしい」「耐震性能も高くて安心」といった商品への満足と、「会社はとても良くしてくれた」という会社への満足の2種類があります。実は「満足したけど、紹介は嫌だ」というケースがあります。
これは“商品”には満足したけど、会社に対しては不満であり“信頼”していません、だから紹介できませんという状態の事です。このケースはたくさんあります。アンケ―トで、満足は多いが紹介が少ないと感じていたら、このような状態にあるのかもしれません。
こんな事例があります。ある住宅会社で施工したお客様に、お引き渡し後にお話を聞いたときの話です。性能はとても良く、冬は暖かく夏は涼しく、思っていた以上に快適な暮らしが出来ていますとのこと。
では多くの紹介をしているのかと思いきや、この住宅会社は絶対に紹介しないという返事でした。何故かというと、「工事中に不安な事を聞いても返事がない、思っていたイメージと違うのに説明もない、挙句の果てには聞くたびに嫌な顔をする・・・。紹介した人が、私と同じ目にあうのは許せないと思う、だから紹介しません」ということでした。
不安・不信感・不愉快-1ミリも与えるな
何故そのようになったのでしょうか?一番大きな原因は、お客様の気持ちに寄り添うことができなかったということです。お客様は、いろいろな住宅会社を比較し「ここに頼もう」と決断されて契約します。この契約時は気持ち(モチベーション)が高まっており、工事が始まると「ワクワク感」が徐々に高まり、完成時は最高潮に達します。
ではこの気持ちが高まるはずの期間に、「連絡が悪くて不安を与えた」「言った、言わないで揉めた」「現場でのマナーが悪く、不愉快な思いをした」などの経験をしたらどう思うでしょうか?
気持ちが沈み「近隣から何か言われたらどうしよう」「依頼したことが本当に反映されるのだろうか」「会社選びに失敗したかも」といった後悔の念に苛まれるでしょう。住宅会社や工事監督、業者にとっては数あるうちの1軒かもしれませんが、お客様からみると1つしかない家づくりです。その現場で不安や不満を発生させてしまうと、会社の信頼を失わせることになるのです。「あの会社なら大丈夫だね」と言われるようになるには、特に建築中の現場対応でその評価が大きく分かれます。ちょっとした差ですが、大きな差になりかねません。
お客様に不安・不満を与えないためには、特に建築中の現場での対応がとても重要になります。逆に言うと、現場でお客様に安心感を与え、不満の芽を事前に摘み取ることができれば、信頼獲得と次の見込み客を発見する場になります。
そのためにおこなうことが、「現場をきれいにしよう」「マナーを大切にしよう」「品質のしっかりした建物をつくりましょう」ということになるのです。現場をきれいにすることが目的になっている会社がおりますが、現場を重視するその本質は「信頼を得ること」です。これを続けていくことで、会社のブランドにもつながってきます。
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