松尾 僕も縁側はデッキという形で、ほぼ100%の住宅でやっています。前野先生は、住宅会社と「心」の側面から幸せと住宅の関係を多分追求されてるんじゃないかなと思います。それは絶対にあるのと同時に、もう1つの体の側面も(幸せと住宅の関係において)非常に重要な要素です。
僕が手がけた高断熱の住宅に引っ越したり、高断熱リフォームを施した特に50代~60代の方から、全て家が原因ではないのでしょが、肩こりや腰痛、喘息・咳が止まらないといった悩みが、かなり改善されたという感想はよく聞きます。(性能の低い家は)すごく体にストレスをかけているんですよね。
三浦 断熱性能が低い家が、日本にはまだまだたくさんあり、いまだ体の健康ですらおぼつかない状況ということでしょうか。
松尾 そうですね。心と体はリンクしていて、例えば寒さ、暑さ、体の痛みを感じると、人間はイライラしやすくなりますよね。やはり負の刺激がないということ(住宅)は、お互いを思いやるような心のための土台の役割を果たすのではないでしょうか。
前野 そうですね。(心と住まいの関係で言えば)断熱性能とは相反するかもしれませんが、海外などで例えば天井が高いほど人は幸せを感じるという研究結果があります。国内でも、うつ病の方のために天井の高い病院をつくったら、回復率が高まった、最先端の医療環境を整備したのに、回復した方にアンケートをしたら、「天井が高いのが良かった」という回答が一番だったという事例をお医者さんから聞いたことがあります。
松尾 確かに天井を高くすると建物の容積が大きくなり、冷暖房費は上がる傾向にありますが、断熱・気密性能を高め、日射をコントロールできる設計をすると、天井高も含めて間仕切りの少ない広々とした空間でもエネルギーコストを抑えて快適な環境を確保することができます。
三浦 間仕切りのない広々とした寒くない家は、コミュニケーションを活発化させ、それが幸福につながる側面もあるかと思うのですが、前野先生は住宅会社とのプロジェクトのなかで、そうした観点から見えてきたものはありますか。
前野 皆さんもう御存じのことだと思いますが、縁側の代わりに外に開く、外とつながるようなデザインや、外から帰ってきた子どもが直接、個室に行くのではなくリビングやリビングにある階段を経由して行くようにする動線はコミュニケーションを促す効果があり、それは幸せにも関係すると思います。
松尾 前野先生がおっしゃった、いわゆるリビング階段は確かに家族のコミュニケーションを促しますが、これも断熱・気密性能や暖房計画をセットで考えないと、暖気が全て上に抜けてしまってリビングが暖まらないという現象が多発しています。コミュニケーションは良くなったけれど、寒さやコストの面では悪化するというプラマイゼロのようになってしまうんです。
三浦 最後に前野先生、松尾さん、本日の対談での気づきや家づくりに対して感じたことなどをお聞かせください。
前野 今後も、松尾さんはじめ、それぞれの分野で連携しながら(日本の暮らしや住宅を)良くしていきたいですね。
松尾 理屈的に正しいことを粛々とやるっていうことがすごく難しいのが日本の問題だなと思います。住宅業界の発展のために、前野先生にご協力いただけたら、それに勝る喜びはありません。本日は本当にありがとうございました。
※対談動画(全編)は読者限定サービスで視聴いただけます
Pages: 1 2
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。