「幸せな暮らし」を実現する住まいとは、心と体の健康を確保する
新建新聞社は、松尾和也さんの新著「お金と健康で失敗しない間取りと住まい方の科学」の発刊を記念し、慶応義塾大学大学院教授で「幸福学」の研究者として知られる前野隆司さんと松尾さんによる対談を行った。心と体の健康を確保し、「幸せな暮らし」を実現する住まいのあり方について考えた。聞き手は新建新聞社社長で新建ハウジング発行人の三浦祐成。※内容を抜粋して紹介
前野隆司(Maeno Takashi)
山口県出身。1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。博士(工学)。専門は、システムデザイン・マネジメント学、ヒューマンマシンインタフェースデザイン、システムデザイン・マネジメント学、地域活性化、幸福学、幸福経営学など
三浦 前野先生は、どのような研究をされているのでしょうか。
前野 慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科におりまして、機械工学出身で最初はロボットの研究をしていましたが、ロボットの研究から人間の心に興味が移り、最近では人は幸せになるにはどうすればいいか、幸せに働くとは、幸せに住まうとはといった幸せについての研究をしています。
松尾 人は、幸せに暮らすため、健康でいるために「食」や「運動」についてはすごく勉強するのに、同じ“幸せになる”という目的で建てる「住まい」については圧倒的に知識が不足しています。それを補完したいという思いでこの本(「お金と健康で失敗しない間取りと住まい方の科学」)を書きましたが、それは前野先生がやられていること(幸福の研究)と重なっていて、そこで、ぜひ、お話ししてみたいと思ったんです。
三浦 お2人ともエンジニアの部分があり、例えば住宅の分野で、居心地や健康のようなわりとふわっとしているものを科学的にとらえてきたのが松尾さんで、この本も科学的な観点で書いていただきました。前野先生も、幸せのようにふわっとしたことを科学的に体系立てて整理されており、松尾さんと共鳴する部分があるのではないかと思います。前野先生の視点から、松尾さんの書籍でピンと来た部分や、逆にここが分からなかったということがあればお聞かせください。
前野 ピンときましたというか、盲点を突かれたという感じです。家というものに対して無知だったなと思い知らされました。松尾さんが著書で書かれている(建築の)熱力学や構造体の設計論は、基本は私がやっている機械工学やロボット工学と似ていますから、松尾さんの本を読んで、非常にシンプルに熱力学的に考えて、こういう形の方がいいと言われてみれば、それはそうだなと腑に落ちました。
幸せも一緒なんです。幸せについて感謝した方がいいよねとか、友だちがいたほうがいいよねとか、言われたら当たり前のことを皆さん意外と知らないんです。そんな知っておくべきことを知らない。住むということに対して、それと同じパターンがあるのだとつくづくそう思いながら、あっという間にすごく面白く読ませていただきました。
三浦 前野先生は、住宅会社さんと一緒にプロジェクトを進めていると著書にありましたが、そこで何か感じていることはありますか。
前野 いろいろな気づきがあります。「住めば住むほど幸せになる家」という研究を、ある住宅会社とやっているのですが、もともとその住宅会社がやられていたさまざまな工夫を分析してみると、それは自分らしく生きるなど、要するに幸せになるための工夫と言えるのです。より良い家としてつくられていたいろいろな物事が、幸せに関係しているということを実感しています。
一方で、その逆もあります。例えば、内と外をつなぐ交流スペースの機能を果たす縁側は、幸せのためにとても効果的なのですが、高断熱・高気密住宅になって縁側のない住まいが増え、核家族化も相まって、昔の長屋や村社会のようなコミュニケーションが減るという、良かれと思ってやったことが、実は幸せを削いでいるみたいなこともあるんだなと思うんです。
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