「開口部近傍に心地よさは宿る」———。
建築家・伊礼智さんが設計する住宅に欠かせない「庭」という存在。その多くを手掛けるのが、造園家の荻野寿也さん(荻野寿也景観設計)だ。家づくりにとって庭は、建物予算を圧迫し、打ち合わせ時間を長引かせる“厄介もの”とされることも少なくない。これに対し荻野さんは、庭は、建築の魅力を引き立て、幅広い顧客の心をつかむ家づくりのカギになるとする。工務店は、家づくりにおいて庭をどう生かせばよいのか。荻野さんに聞いた。
〈※掲載情報は2020年取材時のものです〉
造園家・荻野寿也
荻野寿也景観設計代表。1960年大阪府生まれ。建築の勉強をし、現場施工に携わった後、1989年に家業の荻野建材に入社。緑化部を設立し、ゴルフ場の造成やグリーンメンテナンスを手掛けるなかで芝生や樹木を研究。1999年に自邸をつくった(建築設計:坂本昭氏)際に、庭の心地よさを体感したのをきっかけに独学で造園を学ぶ。現在、全スタッフ16名を擁し、全国の住宅やホテル・社屋・店舗など年間60件以上の造園を手掛ける。著書に「荻野寿也の『美しい住まいの緑』85のレシピ」(エクスナレッジ社)
昨年、伊礼さんらとスリランカを旅した。目当てはジェフリー・バワの建築を巡ること。彼の建築は中間領域の空間デザインが秀逸で、建物に居ながら周辺の緑を身近に感じられる仕掛けが随所に散りばめられている。夏の宵、エアコンが効いた部屋で飲むビールより、多少暑くても日陰で風通しのいいデッキで飲むビールの方がうまい、という感覚をきちんと理解して建築で体現している。
こうしたアジアの建築は、意外にも日本の名旅館に影響を受けていることが多い。例えば京都の「俵屋旅館」や湯布院温泉の「亀の井別荘」など。名旅館には必ずいい庭があり、そこで過ごす時間は、料理を味わうのと同じぐらい価値がある。私はこうした場所を数年に一度は訪ね、その心地よさの感覚を体に覚え込ませるようにしている。
日本では茶室と庭園のように、建築と庭を一体空間として味わう文化が脈々と流れている。著名な建築家は、実は庭好きであることが多い。かつて建築家の吉村順三さんは、現地調査の際に長竹棒を持参して空中に四角形をつくり、周りの風景を切り取る窓の位置を決めたという。現代でも・・・・
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この記事は定期購読者限定の記事です。続きは、新建ハウジング2020年3月30日号7面に掲載しています。
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