建築物省エネ法改正案の早期国会提出を目指す署名活動「建築物省エネ法を国会に提出してください。」の署名が、1万5000人・400団体を超えた。発起人の東北芸術工科大学教授・竹内昌義さんらは4月18日、集まった署名を世耕弘成参議院議員(自民党)に提出。21日には木原誠二内閣官房副長官にも署名を手渡した。
新建ハウジングでは21日、竹内さん、呼びかけ人となった前真之さん(東京大学大学院准教授)、小山貴史さん(エコワークス社長)、今泉太爾さん(日本エネルギーパス協会代表理事)、内閣官房への提出を支援した大林ミカさん(自然エネルギー財団事業局長)に取材した。なお、法案は一転して今国会へと提出される方向性となり、明日22日には閣議決定される見通しだ。
竹内昌義さん(東北芸術工科大学教授、発起人)
署名には、業界内の方々はもちろん、市民団体や環境問題に関心を持つ若者も参加してくれた。前先生、小山さん、今泉さんのご尽力で国会議員の関心も高まった。一般の方々の、断熱に対する理解が深まったことは、ケガの功名かもしれないが、2025年省エネ基準義務化が確定的になったこと以上の、大きな意義があったのではないか。
とはいえ問題はまだたくさん残っている。今後進むであろう施策の段階は今提示されているままでいいのか。再生可能エネルギーの普及拡大策は具体性に欠けているし、ストック対策も抜け落ちたまま。それらを総合的に伝え、広めていかなくてはならないと考えている。2020年からの5年のビハインドを、どう埋め合わせていくか。これはみんなで考えるべき宿題だ。
前真之さん(東京大学大学院准教授、署名呼びかけ人)
これまで、全ての国民の幸せを左右する住宅・建築物の省エネ対策の方向性が、ごく一部のつくり手の都合だけで決まっていた。義務化に対応できない事業者の存在が義務化の障害になると言われていたが、そんな事業者はごく少数では。イニシャルコストの問題も、金融的な支援で解決できるだろうし、電気料金が上昇する中、高断熱住宅はますます“お得”になる。
議論が小さなコミュニティに閉じていたせいで、多くの人が断熱の重要性を知らなかった。国会議員にもレクチャーする機会をいただいたが、知れば「それはいいことだ」と同意していただける。業界の利より国民全体の福祉を優先するのが、正しいあり方ではないだろうか。
小山貴史さん(エコワークス社長、同上)
ようやく2025年までの適合義務化が確実になったのはいいことだ。しかし本来は2020年の義務化が、閣議決定まで至ったにもかかわらず無期限で先送りされていたのだから、5年間のブランクを早急に埋めなくてはならない。
また、省エネ基準も、2030年までにZEH水準に引き上げ、その後も継続的に見直すとされている。しかし、住宅・建築物のロックイン効果を考えると2050年までの、段階的な引き上げの水準を明示すべきと考える。再生可能エネルギーも、自治体が条例で説明義務を課せるようになるだろうが、再エネ普及は喫緊の課題。設置・説明義務を既に課している京都府や、住宅を含む設置義務化を検討している東京都レベルの施策を、早期に法制化する必要もあるのではないだろうか。
今泉太爾さん(日本エネルギーパス協会代表理事、同上)
省エネ基準の義務化や、基準引き上げによって業界の底上げが進むと、一工務店としては差別化しにくくなり、自分の首を絞めることになる。しかし、社会の変革には必要なこと。自分のことだけを考えていると、何事も反対したくなるが、社会全体でどうあるべきかを考えるのが先決だ。
社会が進歩したとき、自分はさらに一歩先を行くためにどうすればいいかを考えるほうが建設的だ。否定派の多い太陽光発電にしても、問題があるから否定する姿勢はやめてほしい。その問題を、建築的にどう解決するか、みんなで探っていくのが我々プロの仕事。やらない理由探しよりも、問題を克服するために知恵や技術を使っていきたい。
大林ミカさん(自然エネルギー財団 事業局長)
2020年省エネ基準適合義務化が先送りになったとき、私自身とても落胆した。2021年2月24日の、第5回再エネタスクフォースでは前先生に素晴らしいプレゼンテーションをしていただいたが、住宅業界の皆様がそれを広めてくださった。あの回がなければ、今のような状況にはなっていなかっただろう。
署名活動は、集めて提出することよりも、その過程が重要だと言われる。多くの人に広がり、理解されていくことが運動だ。今回も、さまざまな人がいろいろなところで動いていたが、署名がそれらをつなぐ有機的なハブになった。まだ対立点も残っているだろうが、省エネに関してはポジティブな方がとても多く、自分の立場とは関係なく賛同していただき、とても素敵な運動になったと感じている。
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