日本銀行調査統計局は4月15日、「脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理」と題する論文を発表。脱炭素社会への移行が経済成長率上昇につながる可能性を指摘した。
論文は、「エネルギー基本計画」の2030年度に向けた電源の脱炭素化は、原子力発電所が再稼働するもとで、▽再生可能エネルギーの拡大(当面の主軸は太陽光発電)、▽火力発電の低炭素化(LNG比率上昇)――によって実現するとし、こうした電源構成の変化がエネルギー価格に及ぼす影響は、「再エネ導入コスト」と「化石燃料の価格見通し」に依存すると指摘。太陽光などの発電コストが緩やかに低下していくこと、化石燃料価格が安定して推移していくことを前提としているとした。
その上で、これらの諸前提が成立する限り、再エネ導入を急速に進めたとしても、「そのコストがエネルギー価格上昇を介して経済を下押しする程度は小さいと見込まれる」との試算結果を示した。
ただし、太陽光発電は、▽土地活用が進んで適地が減少し建設コストが上昇する可能性、▽送電網の増強投資等の拡大による資源需要の大幅な高まり――等による再エネコストの上押しリスクを指摘。化石燃料についても、化石燃料の需給が逼迫し、価格に大きな上昇圧力がかかるリスクは否定できないとした。
今後のポイントとしては、企業の取り組みについて「企業部門は、長期にわたり旺盛なキャッシュフロー対比では慎重な支出スタンスを続けてきたが、気候変動問題への取り組みが、こうしたスタンスを変化させるきっかけになる可能性がある」「脱炭素の取り組みを進める主要企業の動きが、より幅広い先に波及していくかも注目される。サプライチェーン全体で、既に中小企業でも脱炭素対応の要請を受ける先が増加してきている」などと指摘。
現時点では存在しない極めて革新的な技術が求められるため、「より長期にわたる粘り強い取り組みが求められる」との声があるが、▽脱炭素関連で高い技術を有している企業が少なくない、▽素材業種の中には従来からエネルギー効率面などで優れた先も多い――ことから、「やや長い目でみて、脱炭素社会への移行が生産性や経済成長率の上昇につながる可能性は十分にある」とした。
そのために、脱炭素社会への移行を社会全体として円滑に進めていくには、「構造変化への対応の鈍さ」という日本経済が抱える「古くて新しい課題」に改めて向き合うことも極めて重要であるとしている。
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