僕が大切にしているルール
野沢:迎川さん、ありがとうございます。僕はやっぱり住宅を商品化しちゃまずいと思っています。以前もお話ししてるかもしれないけど、ヨーロッパの公営住宅や集合住宅だとか、そういう建築物を見に行くと、今の例はスウェーデンとデンマークと、スイスですけどね、住んでる人が自分で家を建てて、住み終わったら壊して、なんてこれっぽっちも思ってないんですよね。住宅っていうのは既に存在してる中に住むという概念なんですよ。
そういうふうに分けると、中はどうなっても、外は残ってる。外が残っていると、周りの樹木も茂ってくる。それは、時間が永く維持されるということ。つくっては壊し、つくっては壊しだと、風景が蓄積していかないから、そこに時間が蓄積されていかないんですよ。それでは勿体無いでしょう?工務店はそういう考え方の中で仕事をしていくことって絶対に大切だと思うんです。
1世代ごとに何千万円も使って家をつくるより、ある世代がつくった家を次の世代はメンテナンスして使っていくこと。その次の世代も使っていくっていう工夫をしながら変化させながら、インフィルを更新していく。
スケルトンは維持されていくっていうことが、住宅を楽しむこと、鍛えることにもなるのかな。新しい物が現れて、それしか知らないなんてもったいない。時間が積み重なっている所を僕たちは経験することが大切なんだよね。それは住宅だけじゃなくて、まちにも同様のことが言えると思う。
そう考えると、当然、土地の造り方に作為が必要になってくる。たとえば、宮脇さんなりの作為だってあるし、それが住宅ではなかったとしても、公団住宅なら、それに対する作為があるはず。みんなが豊かに永く住み続けられる住宅っていうのは、必ず作為が存在する。それは内と外、両方がしっかりと考えられているんだよね。僕らだけの話ではなくて、住まい手が、住んでから自分で空間をつくりこんでいく作為も、暮らしをつくっていくという意味では、同じくらい重要なことだと思う。
迎川:何年か前にLIFULL HOME’S 総研の島原万丈所長にドミノ研究会に来てもらって、お話ししていただいた事があります。その時にスウェーデンかな、北欧の住宅感、こんなお話をしてもらったんですね。その時に出てきたのが、スウェーデンの人たちに「あなたにとって家とはなんですか」っていうふうな質問をすると、7割ぐらいの人が「自分自身」「私のアイデンティティー」っていうような答えが返ってきたと言っていたのが印象的です。
野沢:迎川さんがお話されていた、庭がない住宅がいっぱいできてるっていう話に繋がってくるかと思います。僕らの頃は庭が必要だったんですよね。なんで必要かっていうと、家に専業主婦、僕の母がいて、洋服作ったり、調理をしたり。女性が1日の大半を家の中で家事をして過ごすのが当たり前だった。
母は働かなかったわけじゃなくて、家が働く場所だったわけですよ。そもそも今と時代が違いますからね。庭に洗濯物を干す、場合によっては柿の木があって柿を作るとか。あるいは子供を遊ばせておくとか。一定程度の庭が家には「必須」と言っていいぐらいの場所だったんですよね。
男女雇用機会均等で奥さんは、昼間に家を空けますよね。旦那はもちろんいない。子どもは親が帰って来るまで学童保育にいる。となると、日の当たってる間の住宅には誰もいない。土日は車があって、どこか近くの公園に行ったりショッピングモールに行ったりする。そんな時代の流れがあって、庭の用途が消えたと考える人もいるのかもしれない。
やっぱりハウスメーカーでも、パワービルダーでも良いから、みんなの庭みたいな物をちょっと置いといてくれると、街並みはずいぶん変わってくるんだろうなとは思う。ソーラータウン府中は、そんなに大きな庭はないんだけど、みんなの庭をつくることができた。この話は何度も皆さん聞いてると思うんですけど、ピアノの音が拍手で迎えられたっていうような、人と人との美談っていうか、ウルウルしてしまうような話まで7〜8年にして作る事ができた。
家、そして住宅地、まちをつくる仕事をしてきて本当に良かった。この仕事をやってて良かったなと心から思う瞬間だよね。少し話が逸れちゃったけど。
迎川:設計以前でそこまで想定して仕事をしないですよね。
野沢:そう。そんなピアノの音が漏れたら拍手が出てくるようになるぞ、なんて思ってないですよね。
迎川:僕らができることっていうのは、やっぱりそういう関係が生まれるような土壌を作るっていうか、場所を創ること。あと人間関係をうまく結びつけていくという事ですよね。
野沢:そうです。その通り。
迎川:マンションで色々事件が起きたりするのは、上の階の人と隣の階の人との人間関係がちゃんと作られてない状態で売られちゃってるから。
野沢:そうそう。篠原聡子さんの本にある「アジアン・コモンズ」(平凡社)を見てると、やっぱり、コモンズの場所を、そこに住んでる方々が自分でコントロールして、自分たちで運営してるのが多いんですよね。小さなお店がピロティの下にあったり、みんなで宴会するような場所になってたりね。
場合によっては宗教的な施設がそこにあったり色々するんですけど、そこをみんなで管理してる。みんなで運営してて、そこでルールを自分たちで工夫して作っている。やっぱり住宅地の中でも、そうした場所みたいなのがあると、そこから創意工夫がはじまる可能性だってある。
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