とにかく「常識を疑え」
迎川:この配信をやるにあたって、僕が野沢さんと付き合ってる中で5つの分類に分けてみました。まず野沢さんがよく言うことは「常識を疑え」と。常識を頼りにしちゃうと、思考停止しちゃうんですよね。物はしっかり考えろということは野沢さんから教わりましたから。常識に頼ってみんながこうしてるからこうするんだ。そんなのはダメだと。思考は止めるなと。
もう20数年前ですね。野沢さんと一緒に浜松へ行ったことがあるんですが、その時は家族も連れてということで、うちのカミさんも一緒に行ったんですけど、新幹線の中でずっと野沢さんが読んでる本、これが飛行船の本だったんです。
それをうちのカミさんがしっかり見てまして。いまだに野沢さんって言ってもピンとこないんだけど、飛行船の先生だよっていうと「あ〜」ってわかる。それぐらい野沢さんは建築だけじゃなくて、いろんなところにアンテナを張っている。また飛行船がどうしてああいうふうな仕組みになってるのかとか、そんなことを一生懸命考えてる。そんな人だと思います。
建築に近い興味で言うと橋梁、橋ですよね。橋の興味なんかもすごいですよね。そんなものもあったりして、野沢さんがいつも言われることは、「思考を止めるな」。君はそれを考えて何がしたいんだと。結果は同じだったとしても、きちんと考えたかどうか、これが評価の基準なんだと。どうでしょうか、野沢さん。
野沢:いや。そんなふうに言われるとすごく照れますね。「止めるな」なんて強く言ったかな(笑)。さっきの内田先生が東大を定年退官してもう40年ぐらい経ってると思うけど、その頃に弟子たちがまとめた本があって。多分市販されてない本ですけど、ひょっとすると古本屋で買えるかもしれない。「造ったり考えたり」って言うタイトル。
造るって言うことと考えるって言うこと、つまり思考するってことは、ほとんど五分五分っていうか。考えてみて・作ってみる。作ってみて・考えてみるっていうことが大事なの。考えることっていうのは、自分なりの習慣にしないといけないよね。
「善意」と「悪意」の物差し
野沢:私が考える、考え方の物差しがあります。ちょっと言い方難しいんですけど、「善意」を前提としたものと「悪意」を前提としたものが世の中にあるような気がするんですよ。
迎川:どういうことですか?
野沢:上手くこの説明をできるかどうかが難しいんですけど、たとえば警察っていうのは悪意を前提として存在してる気がする。だからいい人を見ても「こいつ悪い奴なんじゃないか」と思う癖がついてるような気がする、なんとなくね。
消防は悪意がない。つまり火事という困難な事態がある時に出て行って、それを片付けるっていう役目ですから。強引ですけど、2つ並べると、警察は、悪意を前提としてて、そりゃそうですよね。悪い奴を捕まえなきゃいけないから。悪い奴のことばっかり考えてるわけだから。消防は善意ってなんとなく思っちゃうんですよ。つまり、こういう物差しを常に考えることがトレーニングに繋がる、ということ。全然関係ないように思えて、自分たちの仕事に直結してくるんだよね。
そう考えると、建築ってどっちなんだろうって。建築も善意であって欲しい。だけど、ある建て混んだ住宅地みたいなのを見ると、「この人たちがつくっている『住宅群』は善意でつくっているのか?」って思っちゃう時がある。場合によっては、一部悪意が入ってくることが、悪意っていうのは金だったりするかもしれない。本当のところはわからないけどね。僕はそう感じる。
僕が始めた頃の建築って悪意はなかったんですよ。そもそも住宅が不足していたし。みんなが欲しがってくれた時期ですよね。公団住宅なんか何十倍とかの競争率だった。だから不足している時に作るっていうのは悪意なんか全然どこにもないですよね。
迎川:産業になってくるとそこにお金が絡んでくるから、悪意持った人間も入り込んできますよね。
野沢:そうかもしれないね。たとえば小さい変な下手地みたいなところにものすごく面倒臭そうな集合住宅建てて、ギリギリ建築基準法OKしてるけど、周りから見たら何ができちゃったのみたいな。長屋構造なんだけど間に小さいロフトみたいなの挟んでドカンとできてるやつが、世田谷にあったりしたんですよ。ああいうのを役所の審査課の人も「あれはちゃんと合法ですから」というわけですよ。そんな建物を見ると、うちの業界にやばい世界、悪意がちょっとあるな、と思ったりもしたりして。それで、善意のように見える土木が結構好きなんですよね。
迎川:ちょっと建築から外れますけど、野沢さんから「考えろ」と言われる中で印象に残っているのが、日本で人口が1番多いところはどこなんだと。もちろん東京に決まってます。しかし、ある時期は東京じゃなかった時代があったんです。新潟県の人口が最も多かったんだと。野沢さんから「これはどうしてだと思う?どうして東京じゃなくなったと思う?」と言われて。「?」となりました。新潟がなんでそんなに?と思ったんです。
その地域の人口っていうのは、そこで採れる食い物の量で、そこに生きられる人間のキャパシティが決まってたんだなと。そういうことで言うと新潟が1番。北海道の方がもっと取れるかもしれないけど。寒くて誰も住みたくない時代だったから。
それが新潟だった理由に「地方の工業化」も要因としてあるでしょうし、その時に野沢さんから聞いて、なるほどって思ったのは、窒素の発明があったという話でしたね。窒素というのは肥料になるわけですから。単位面積あたりの生産性がグッと上がるわけですよね。
野沢:いやあ、いろんなことを喋ってますね、僕は(笑)。
迎川:それだけ野沢さんは考える幅が広いってことだと思います。
壊すことまで考えること次ページ▶︎
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。