自分の“感性”をどうやって磨いていくのか?
野沢:何が面白いのかは難しいし、そんなの人それぞれでしょう?長く仕事していると、だんだん自分が最も「これ面白いな」と思う方向にシフトしていく。理想を言えば、これが自然なことだと思う。誰かの命令で生きてる人っていうのは、退屈だし、その人にとって本当にそれが適切なのか、また、居心地が良いかはわからないよね。
誰か上にいる人が「これとこれをやりなさい」って指示を出して、その通り仕事をこなす。本質的なことを言うと、組織でも、実はそういう人の使い方はすごく損なんだよ。相当難しいんですけど、その人が最も得意なところ、たとえば建築分野でもこの辺が得意っていうのが時期によっても変わるかもしれない。
成長の度合いによっても変わるし、経験によっても変わるかもしれない。だけど、自分がいちばん手応えのある仕事の仕方っていうのを、それぞれの人が見事に探りあてて少しずつそれを変えながら自分の居場所を見つけるのが、他の人とのネットワークを構築していくことによって、おぼろげに見えてくるものなのです。
うーん、でもね。そうは言ってもさ。それを自覚してできるわけじゃないので、なかなか難しいと言えば難しいんですけど。それでも自分が考えるっていうことと作ること、その両方がちょうどいい天秤に乗っかっている。それが大切なことなんだよね。
「考える」ということと「創る」っていうこと、僕の言い方で言うと、「作為」が何らかの格好で、いろんなものを見るとか聞くとか、学ぶとか言うことによって、鍛えられて、その人なりの感性になっていくんじゃないのかな。
建築の場合もいろんな人がいるんだよね。何をつくるぞって言う時に、たとえば家族が過ごす場所は絶対ここだよなっていう場所に、自分の作為をどれだけ見出すことができるのか。それって実はとっても難しいことなんだけど、時間をかけて、自分が辿り着く答えに到着した時が、もっとも幸せな瞬間なのかもしれないね。ちょっと喉がガラガラしてきたので、一段落します。
迎川:はい、野沢さんありがとうございました。お話の中でこの本の図面を載せることにあまりいい顔をしてなかったっていうのは、載せること自体にいい顔をしなかったんじゃなくて、これ15年前のものなので、今言われてる断熱性能がQ値でいうと1.9なんですよ。
Q値2.1のものを後生大事にいい建物だって言ってるのも何かアレなんで。読む時には断熱はちょっと入れ替えて読んでください。そうやって時代によって、ものが変わってきますし、ドミノも今UA値で0.46と言っているわけですから。
特に家の性能に関しては耐震性も含めて、この10年、15年で大きく変わってきますよね。そんなところも変えるところは変える。変えちゃいけないところは変えなくてもいい。その辺の区別もやっていくといいと思います。それではですね、ちょっと休憩を挟みます。
「作為」をぶつけ合う瞬間がたまらない
迎川:それでは時間になりましたので、後半部分始めていきたいと思います。先ほど野沢さんからお話があったみたいに、内田祥哉先生は僕も、日光金谷ホテルで野沢さんと一緒に内野先生のご案内で回った事がありまして。本当に小屋裏まで一生懸命入ってね。みんなに説明する時に「やっぱりこの仕事が好きなんだなあ」っていう感じが出ますよね。目がキラキラして。もういいお年だったんですけど、そんな所に登ったの!っていう感じで。でも本当に好きで好きで。みんなに教えてあげたい、その気持ちがものすごくありましたね。野沢さんにも今そういう気持ちがあるようですが。
野沢:その人は96歳。
迎川:96歳になりますね。
野沢:96歳まで現役でした。本当にずっと定年がなかったですよね。
迎川:そうですね。
野沢:地元との関わり方はどんな格好でもいいと思うんで、例えばリタイア後でも、時に応じてちょっとだけ相談に乗るとか。そういう人としてエンジニアとか専門家っていうのは絶対古くならない。役に立ち続けるんだろうなと思いますね。内田先生はそういう人だったので。
奥村がいなくなって内田先生がいなくなったところで、やっとですね、先生がいなくなっちゃったっていう感じ。先生って言いながら、その2人はさっき言ったみたいに、仰ぎ見る人ということでもあるんだけど、真っ平らな人っていう感じもして。本当に懐かしいですね。
迎川:僕はまちづくりが好きなんですが、まちづくりを教わったのは宮脇檀さんですね。もう少し言えばまちってどうしてできるの、どうして必要があるのとか。
まちの機能とは何なのかっていうのは、宮本常一さんという民俗学者から教わりました。宮本さんから、人と人が集まって住むまちってどういうことなのみたいな(ことを教わった)。そういうことを知ってまちに興味を持ち、宮脇檀さんから具体的に教えてもらった。コモンも宮脇さんから教わりましたね。宮脇さんはハウスメーカー、積水(ハウス)とコモンシリーズをつくってたりね。そんな現場も見せてもらったり。そういう人との出会いですよね。
野沢:やっぱり誰とどんな出会いを重ねていくかってすごく重要だと思う。すごくいい関係性の中で、共有するものを挟み合いながら「作為」をぶつけ合うみたいなことができると、グッとよくなる。
迎川:そうですね。僕と野沢さんのお付き合いも、かれこれ知り合ったのは30年以上前になるかな。その頃は、面倒臭そうな人だなって。厳しそうな人だなって(笑)。そんな印象でした。
野沢:そうだったんですか。なんかすいません(笑)
迎川:その後、僕がOM研究所に入って、野沢さんが時々研究所に遊びにきて。そんな時にお話ししていて、帰りがけに「君、面白いね。いつかはきみと一緒に仕事してみたいね」みたいなことを言って帰って行ったことがあって。
野沢:そうですか。
迎川:いよいよこの人とは付き合わなきゃいけないのかって(笑)
野沢:すいません(笑)
迎川:その後は東京都のむさしのiタウンですよ。それでドミノを開発していった。
野沢:そうだね。
迎川:付き合ってみるとすごく物分かりのいい人で。あと、自分がやるべきこと、そうじゃないことを明確に、ご自身が意識してらっしゃる。僕がやった方がいいことは、僕の方へ振ってくれる。それに対して報告はしてもあまり口出しはしない。軌道が大きく外れれば、それは、軌道修正はしていきますが。そんな感じで、これまでうまくやってきているという感じですね。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。