“私じゃなければ出来ない”仕事しかやらない
野沢:工務店の仕事を考えた時に、誤解を恐れずに言うと、厄介な相手の仕事を引き受けなくてはいけない側面がある。じゃあどうしたら良いのかというと、工務店自身が変わろうとすることが大事で、仕事の領域をずらして、対峙する層を変えていくことなんじゃないかと思う。拡大するとも言えるのかな。
僕が顧問をやっている木造施設協議会なんかが良い例で、工務店は中大規模木造に手を出していくのも手だと思う。その参考書的な形で事例になるものがあるので、ぜひ本を一人一冊買って読んでほしいです。
話を戻すと、僕自身は相当若い頃から、自分で考えて仕事を断ってきた。人の紹介や訪ねてきてくれた方々に対してもそう。要は建築設計するけど、熱意がまったくないような案件。紹介してもらったからお願いしますよ、知人の○○さんが野沢さんがスゴイって言うから来ました、とか。ぶっちゃけ途中までやって断ったこともあるくらい。向こうが本気で僕と組みたいっていう時じゃないと降りたくなる。
何か面白いことをやる、考えて実現するっていうのは相当難しいことだと思うけど、大切なのは頭のなかが「経済」で縛られないことだと思う。そういう循環が上手く回っていくと、何か面白いことが始める瞬間がわかるというか。
だから本にもありますけど、府中のソーラータウンの真ん中のところは、子供のアイディアみたいなところが出発点にあったと思うんですよね。ムサビ(武蔵野美術大学)の学生が真ん中あたりは緑の方がいいって言った。僕自身はちゃんとそういうふうには覚えてないんですけど、でもそういうふうな、塀がない方がいいね、と言ってるあたりとか。
それをどうやってするんだよっていうときに、不動産の専門家の人に相談したら、それを抑える方法として「地域権」という法律があることを教えてくれて。それで抑えておけばできるみたいで。
つまり普通に考えたら住宅と住宅の間には塀があって、フェンスがあって、っていうことなんですけど、「普通に考えない」っていうことをどうやったらできるかっていうと、「普通に考えない」っていう方法ではできない。人と話をするというか、人とこんなことできないかしらって言って、盛り上がるっていうか面白がるっていうか、その作為を鍛える。互いに相互に応答しながら。それはすごく面白いし、そこから何か出てくる可能性はすごくある。
よく昔、SONYだとかHONDAだとかの成功話で、AさんとBさんと2人でやってたからSONYも大きくなった、と言ってましたよね。
それってやっぱり2人いたからじゃなくて、役割を分担してたから、水平に応答してたからじゃないかな、というふうに思ったりします。やっぱり規制が多くてつまらない社会だと何となく思いますけど、なるべく工務店同士が知恵を鍛え合うというか、応答しあう。それは新しいものを見たりいろんなことをするっていう時に生まれるものなんじゃないかな。
去年の5月、東京大学の内田祥哉先生が96歳で亡くなられて、僕のところにある新聞社から、内田先生について追悼文を書いてくださいって話がきた。ちょっと思い出したことを書いたりしたんですけど、内田先生も奥村よりちょっと年上ぐらいだと思うんですけど、奥村は戦後、建築の勉強を始めて、内田先生は戦前、戦中に建築の勉強を始められた。
内田先生も全く水平な人だった。真っ平らな人間関係をしてくださる方だったっていうのがすごくあって。互いにいろんな話しをする中で、すごく面白いことを互いに見つけるといいますか、そういう時間を持てたなと思います。僕もなるべくそういう人になりたいな。
最近刺激を受けたのが、篠原聡子さんっていう日本女子大学の先生で建築家。日本女子大学の学長です。この人が20年ぐらいアジアのいろんなコミュニティを、さっきの迎川さんが1番最初に仰っていたコミュニティですけど、アジアのコミュニティについて、色々サーベイされています。そのアジアのフィリピンだとか、いろんなところのコミュニティについて学生と一緒に調査したものを紹介している本なんです。
この本に「コモンズというレイヤーの所在」っていう対談があります。篠原さんと高村学人さんという立館大学の先生、コミュニティについての研究をされてる先生の対談が載っています。この中で、ソーラータウン府中のことが話題になっているんです。篠原さんは去年、対談の中で、このソーラータウン府中をかなり具体的に話されていました。高村さんは「経験を使った」ということについて、すごく感心してくれてるんです。
やっぱり場をつくることができる、小さい広場みたいなのは作れる—というように、そこをどう使うかについて、入り口では「こんなことできますけどいかがでしょうか」みたいなことは提案できるようになれば強い。ただし、これをずっとやっていたら、本来の役割ではない「教える人」になっちゃうから、コミュニティをつくった後は、住民が自発的に運営していくような仕組みづくりが大切だと説いていました。
多分これに出てくるコミュニティコモンズっていうのが、あらゆる形でそういう場所があって、場所を工夫して使うことによって、そこに人間関係だったり、人と人との地域社会が現れるみたいなことを、この本は教えてくれるような気がします。
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