あなたに本当の「作為」はありますか—。
先般オンラインで開催された木造ドミノ研究会定例会。建築家の野沢正光さんを迎え、同研究会事務局長の迎川利夫さんと約2時間にわたる対談が繰り広げられた。日本の住宅、暮らし、まちづくりの姿や問題点、課題とそれに対する向き合い方までディスカッションをし、今後の家づくりのあり方を探った。
野沢さんは工務店に、こう問いかける。「あなたに本当の『作為』はありますか?」
工務店の心を強く鼓舞する“金言”が続出。今回は特別に対談の模様を全文公開する。
有限会社野沢正光建築工房代表、一般社団法人住宅遺産トラスト代表理事
1944年東京都生まれ。東京藝術大学建築科卒業後、大高建築設計事務所入所を経て、1974年野沢正光建築工房設立。現在、横浜国立大学都市科学部建築学科 非常勤講師。これまでに武蔵野美術大学客員教授、法政大学大学院、東京藝術大学、東京大学、日本大学、京都大学にて非常勤講師を歴任。受賞歴に「ソーラータウン府中」2020年度グッドデザイン賞金賞、第18回(2018年)日本建築家協会環境建築賞優秀賞(住宅建築部門)、「和水町立三加和小中学校」第19回(2015年)木材活用コンクール 農林水産大臣賞、「立川市庁舎」第14回(2014年)公共建築賞優秀賞、2012年日本建築学会作品選奨、ほか多数。主な著書に「野沢正光の建築 詳細図面に学ぶサスティナブルな建築のつくりかた」(エクスナレッジ)、「パッシブハウスはゼロエネルギー住宅」(農文協刊)など
相羽建設相談役、木造ドミノ研究会事務局長、建築プロデューサー
1977年3月に武蔵野美術大学・造形学部建築学科卒業後、マツモト建設、OM研究所を経て相羽建設へ。「東京町家」(伊礼智)「木造ドミノ住宅」(野沢正光)など建築家と工務店が組んだ家づくりを数々プロデュースし「エコビルド大賞」「グッドデザイン賞」など受賞。住宅はつくる事より暮らすことを主眼に考え、少ないエネルギー消費で、安心して永く快適に暮らせる家づくりを提唱。地域工務店だからこそできる、人とまちが「つながる」暮らしに力を入れている。
野沢:野沢です。よろしくお願いします。冒頭で迎川さんがおっしゃったように、本当は見学会という形が一番よかったですが、こんな状況下でもあるので、オンラインで開催することになりました。
いま、ご紹介いただいた本(『野沢正光の建築』)は、年末に出しました。事務所で働いている者やOBが制作してくれたものです。完成したものを見ると、こんな仕事をしてきたんだなあと、ある意味、客観視できるというか。
約30年くらい前でしょうか。僕が木造を一生懸命やる契機になったのが、「いわむらかずお 絵本の丘美術館」(栃木県那須郡那珂川町)を手掛けたことです。これをやった時に出会った大工の臼井さんという方がいて、すごく刺激的だった。
稲山正弘さんという、現在は東京大学木質材料学研究室で木質構造を研究されている方がいて、当時は東大ではなかったんだけど、その稲山さんともご一緒した。
木造の基本的な考え方として、木材は地震の時にめり込みながら吸収するっていうのがありますよね。だから抜きだとか、ホゾだとかそういうのがすごく大事。込み栓とかね。いわゆる伝統的な大工の技。
そういう技で設計して、大工の臼井くんに図面を渡したら、要点の原寸図をベニヤ板に書いてくれたんですけど、その整理があまりにも理解度が高かった。僕が言うのも変ですけど、改めて日本の大工はすごいなと思った。そうした経験を通じて、確信したというか、僕はやっぱり木造が良いなと思った。
ちょうどその時期から、木造そのものの考え方も変わってきて、構造計算、木造ドミノもそうですけど、構造計算をきちんとやるようになった。つまり、それまで不自由な木造から自由な木造に変わっていった。もちろん今でも世の中には、不自由な木造はたくさんありますが。
ただ思うのは、木材がたくさんあるから木造が良いんだということではなくて、日本の技術を持った大工がいるから、大丈夫なんだと。僕が書く図面を、臼井くんをはじめとする腕の良い大工が理解して落とし込んでくれる。彼らの長い伝統と培った知識、教養があって実現するんだよね。
なんというか、それまで好きじゃない木造をやらされていて(笑)。こういう木造はなんか違うんだよなあと心の中で思っていたところがあったんです。そんな時に僕らの思っていたことと、大工さんの思いが繋がったという感覚です。
まさしく工務店もそうだと思いますけど、「こんなつまらない仕事やらされて」というんじゃなくて、お前らそんなアイディアがあるのか、それならこっちも人肌脱ぐか―みたいな感じの仕事の仕方が、ものづくり、仕事の根源にあるんじゃないでしょうか?
だから、迎川さんが先程ご紹介してくれる時に「いつまで経っても仕事をしている」って褒められているのか、貶されているのか(笑)、なんなのかわからないコメントがありましたけど、“ものづくりの先”みたいなのものがあるので、飽きずにずっとやれているのだと思います。
どれだけ「作為」があるのか?
野沢:ものづくりをよく考えてみると、一言で表現すると「作為」がある行為だと思っています。なにかしらの要望や依頼があったうえで、自分としてはこんな風にしたら良いんじゃないかという作為が働くはずです。
プロはその作為が面白いと感じるんですよ。一般の人はそれを見て作為と感じる必要はないと思うんですけど、例えば映画だと、黒澤明の作品を観ていて「黒澤映画らしいなあ」と、なんとなく作為を感じることは出来ると思うんですよね。その工夫がプロは互いにわかる。だからきっと映画監督とか関係者は、映画を観ていても面白くないんじゃないですかね。気が気ではないというか(笑)。
要は作り手側の作為が気になって仕方ないと思います。それは建築も同じでしょう。建築家が建築を見ると、この人はどんなことを考えて建築したのかと。一般の人は、そこまで気になるはずがないと思う。作曲家も同じで、解説を聞いていると、どういう構成をしていて、どこをあえて崩していて・・・とか色々出てくるじゃないですか。
つまり、誰も気が付かないような細部についても、どんなところにこだわったのか、一生懸命やっている人は、エピソード的なところもふくめて、ちゃんと伝えることができる。
今回出した本の中では、迎川さんの協力もあって、木造ドミノの事例もたくさん載っています。住宅事例や中大規模木造もかなり載ってます。ぜひお手に取って見てください。
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