都市部における持ち家の選択肢としてマンションリノベーションが定着した。だがリノベーションに断熱改修が組み込まれる事例は少ない。九州大学芸術工学研究院助教の岩元真明氏が設計した「桜坂の自宅」を取材し、断熱改修の手法とその効果について紹介する。
計画の要点① 改修プランの考え方
◉本事例は福岡市中央区の歴史ある住宅街に建つマンション住戸のリノベーション。建て主の岩元真明氏は難波和彦+界工作舎の出身の建築家でもあり、温熱環境やサステナビリティを重視した設計を信条とする
◉本事例は築34年。北向きの角部屋で約90m2と広く、既存の間取りは3LDK。この住戸をスケルトンに解体した上で、家族4人で暮らすための新しい空間につくり変えた
◉空間の中心はワンルームのLDK。そこに図書館用の可動書架を間仕切りとした可変性の高い個室を組み合わせた。可動書架を動かすことで個室の数や面積配分を変えられる
➡ライフステージの変化などに合わせて無駄なく空間全体を使える
◉水回りは面積を縮め、その分LDKを広く取った。水回りの配置は大きくは変えず、壁付けのキッチンを中央に寄せるなどプランに合わせて微調整するに留めた
計画の要点② どこまで高断熱化するか
◉本事例は温熱環境を調えることを主題の1つにしている。計画段階で東京理科大学大学理工学部講師・高瀬幸造氏の協力を仰ぎ、さまざまなシミュレーションや実測を行った
◉温熱環境を整える手法は断熱改修が中心。築30年を超えるマンションは無断熱や低断熱の建物が多い。無断熱の場合、現行の省エネルギー基準の6地域における半分程度の断熱性能になる
◉それをどこまで高断熱化するか。戸建住宅と異なり、マンション住戸には断熱性能の指標が少ない。唯一の指標がHEAT20。ここでは共同住宅の指標であるC2以上を目標として断熱仕様を検討した
計画の要点③ 隣戸の熱影響をどう考えるか
◉マンション住戸における断熱改修は、外部に面する部位のみに断熱を施すことが多い。隣戸や上下階の住戸は室内空間であり、温熱的に安定しているという判断だ
➡実際には隣接する住戸の室温はさまざま。どのような暮らし方をしているかで隣戸への影響の度合いが異なる
◉前述したように築30年超のマンションの多くは無断熱か低断熱。光熱費の面から全室連続暖房を行っているとは考えにくい。外出時は暖房を切り、在室時も部分間欠暖房がほとんどと思われる
➡外部ほど温度差は生じないが、隣戸にも熱が逃げているのが実情
◉上記をふまえて現在の省エネルギー基準では条件別に温度差係数Hを設定し・・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・月刊アーキテクトビルダー2022年4月号/超高性能住宅』(2022年3月30日発行)P.90~99に掲載しています。
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