いよいよ開催が目前に迫る『工務店カンファレンス2022』(主催・新建ハウジング)のカウントダウン企画として、今号ではエコワークス(福岡県福岡市)・小山貴史社長に話を伺った。早くからZEHに取り組み、生活者に優れた住環境を提供しながら、脱炭素社会を実現すべく業界内で奔走するその姿勢は、経営にどう反映されているのかを聞いた。
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わずか200年の禍根を次世代に残すな
情報社会が脱炭素工務店の追い風に
2004年の創業時、社名にも冠した「エコ」は、健康とエネルギー、この2つの切り口で捉えていた。ただし、当時はお客様一人ひとりの暮らしが大事で、社会インフラとしての住宅までには考えが及んでいなかった。
転機になったのは、2007年に出されたIPCCの第四次報告書だ。報告書を読み、エネルギー問題の解決には、住宅(家庭部門)が大きな役割を担うだろう。社会的に、住宅の省エネ化が必須になれば、工務店にとって追い風が吹くはずだ――そう確信した。
家づくりで次世代に責任を果たす
脱炭素・エネルギー問題に関わる活動は、未来の世代に対する責任だ。地球の歴史46億年、人類の歴史400万年の中、化石燃料を使うようになったのは200年足らずで、致命的な環境負荷をもたらしている。今の世代の幸せだけを考えていてはいけない。
弊社の住宅は、断熱性の下限をHEAT20・G2、最上位をG3とし、お客様の予算が許す限り性能を高める。グループ全体では、G3と、いわゆるG2.5がそれぞれ20%程度を占め、残り60%がG2だ。長期優良住宅の認定も全棟で取得する。孫の世代まで住み継ぐ前提で、家づくりの全てを組み立てている。
お客様にも、契約後に1時間のセミナーで、住宅が社会インフラとして重要な存在であることを共有する。お客様からも「自分たちの幸せのためだと思っていたが、初めて未来のための家づくりが大事だと認識した」という反応が多い。
来たるべき脱炭素時代のあるべき家づくり
脱炭素社会の実現に向け重要な再生可能エネルギーの普及にも力を入れてきた。現在、全棟の97%がZEHで、LCCM住宅の割合も60%に達している。また、1棟当たりの太陽光発電搭載量は平均7.8kWとなっている。
脱炭素社会で重要なキーワードが電気自動車(EV)だ。多くの人が、いずれEV中心になると予測しており、大容量搭載のメリットを認知しつつある。経済的なメリットが、EVが普及するにつれ伝わりやすくなった。
蓄電池は、現状ではまだ割高だし、レジリエンス性の観点でも、今はハイブリッド自動車なら、1500W給電が可能になっているから、蓄電池を置かずとも十分ではないだろうか。
ともかく、いずれはEVが普及すると予測していたので、弊社では2010年から全棟EV充電設備を標準にしている。
業界のための活動が自社のプラスに
私の哲学は「社会から必要とされる企業は滅びない」。父の代から遺伝子レベルで継承しているし、私自身、松下幸之助の著書などから学んできたことでもある。
仮に経営に全ての時間をつぎ込み、利益至上主義で経営したなら、今以上に業績を伸ばせたかもしれない。しかし私は、持てる時間の3分の2を、自社の経営ではなく、業界団体や省庁の委員会・審議会など、未来のための活動に費やしてきた。
ありがたいことに、公的な活動を評価していただき、有識者の方々から、動画出演など弊社のプロモーション活動へのご協力を得られる機会が増えた。
また、YouTube等を通じ、お客様にも私の活動をご理解いただけるようになった。インターネットの普及によって、旗をしっかり掲げる工務店に人が集まるようになっている。“食べログ”で、特徴のある飲食店を探す人が増えているのと同じだ。
その上で、ニーズに応えられる工務店であれば、より多くの人を引きつけられる。そのニーズのひとつとして、高性能住宅があるように感じている。いわゆる住宅系YouTuberも、性能について語る人は多いが、社会的なトレンドとしての追い風に加え、オンラインの世界の情報で、より特徴を伝えやすくなった。
持続可能な企業になるためSDGsは当たり前
SDGsは、もはや取り組みが当たり前の時代。これからの学卒者は、学校でSDGsの教育を受けてから社会に出ていく。SDGsに取り組む企業は、若者との共通言語を持てるのだ。
また、共通言語という意味で言えば、事業承継のツールとしても有効だ。17のゴールに沿って「エコワークスはこういう考えに基づいている」と、次世代に継承していく。これは弁護士・秋野卓生先生のご意見だが、なるほどその通りだと思う。インナーブランディングにもなる。
弊社はかなり深掘りして取り組んでいるが、まずはできる範囲から取り組んでいただければいいだろう。そもそも工務店であることが「11.住み続けられるまちづくりを」に該当するとも考えられるし、17もゴールがあれば、何かしらできることがあるはずだ。
小山さんからの提言
1.社会の脱炭素化に取り組むことは、未来の世代に対する責任であり、高性能化・長寿命化で孫の世代まで継承できる家づくりが工務店の役目である
2.自社の経営以上に、業界や社会のための活動に時間を費やしてきたが、オンラインメディアの発達もあり、結果的に自社の利になる機会が増えている
3.SDGsは、若い世代にとっては当たり前のものになりつつあり、人材確保や事業継承の際も有効に働くので、そもそもSDGs的な側面がある工務店も、できるところから取り組んでいこう
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