全国の工務店・住宅産業関係者らがオンラインで一堂に会し、「ソーシャルグッドで生き残れ!」をテーマに新時代の住宅ビジネスのあり方を考える『工務店カンファレンス2022』(主催・新建ハウジング)。4月19日開催までの間、今号から3号にわたり、登壇するスピーカー(工務店)の家づくり・経営の取り組み、当日集結する全国の工務店経営者らに対する提言などをお届けする。第1弾は安成工務店(山口県下関市)の安成信次社長。林産地連携による国産材活用にこだわった「木の家づくり」や、“三方よし”を定量化して実践する、まさにソーシャルグッドなCSV経営が注目だ。
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問われる地域工務店の覚悟と力量
木の家づくり選択肢として確立
将来的な着工戸数の減少など住宅市場の縮小が大きな問題として取りざたされているが、われわれのようなわずかな市場シェアの地域の工務店には全く関係のない話だと思っている。シェアを気にしないからこそ、循環型社会の構築や脱炭素化など「社会のあるべき姿」に迷いなく事業ベクトルを同軸化することができる。つくる住宅もそのベクトルに重ねて単純化、つまりは性能・デザインに優れる林産地連携(大分県日田市上津江町)・自然素材による「呼吸する木の家」に一本化しているため、社員にも顧客にも伝わりやすい。この方針は30年近く全く変わっていない。
ウッドショックに対し林産地連携の強さ証明
林産地連携による国産材の家づくりを行っており、3年分のストックがあったことから、ウッドショックによる直接的な影響はなく、特に材が不足するということはなかった。もちろん、これから調達する木材については価格上昇の影響は避けられないが。いずれにしても脱炭素化や新型コロナに伴うパラダイムシフトにより、(市場の)環境は確実にわれわれ(地域工務店)に有利になってきている。
大量生産・大量消費型の社会・経済の構造が音を立てて崩れ落ちようとしている。それを自分たちが身を置く住宅産業に置き換えてみれば、新建材を用いた一極集中生産+量産型の「工業化住宅」に対して、環境への負荷が小さく地域経済への波及効果が高い自然素材型(地域循環型・手づくり型)の住宅の方が選択肢として主流になっていくことは想像に難くない。
欧米など世界を見渡してみても、全国規模の住宅会社などはない。住宅というのは、地域の人たちのために、地域の材料を用いて地域の人がつくる形がどの国でもスタンダードだ。そうしたことを踏まえてみても、これからの社会や経済の潮流のなかで、われわれが実践してきた家づくりがクローズアップされることはあっても、端に追いやられることはないはずだ。若い世代を中心に、生活者もそれに気づき始めているという手応えもある。
工務店の「木の家づくり」社会にアピールする好機
そこで問われてくるのが、地域工務店の覚悟と力量だと考えている。時代と社会の追い風が吹く今、地域の工務店による木の家づくりを選択肢として確立するためには、「こういう家づくりがあります」「こういう家づくりを担っているつくり手がいます」ということを、ある程度“かたまり(まとまり)”として示す必要がある。そのためにも社会のあるべき姿に事業ベクトルを同軸化し、マクロ的な情報や一過性のトレンド、市況に踊らされずに、ベクトルに沿った経営と家づくりをぶれずに貫いていく覚悟や強さが必要になる。性能やデザインに優れ、自然素材を用いてつくる工務店の木の家は、価格も含めて工業化住宅よりも社会から高く評価されるべきだ。“今”という時は、地域の工務店による木の家づくりを、ある種の“運動的”に社会にアピールしていくための好機なのかもしれないと感じている。
そうしたことも念頭に置きながら、大学などの研究機関との協働により、国産材や自然素材によってつくる住宅が環境や快適性、健康に及ぼすプラスの影響を明確に示すことができるエビデンスの収集を進めている。例えば最近の検証では、当社の住宅が一般的な新建材でつくる住宅に比べて「イニシャルCO2(建設時にかかるCO2排出量)」が10~15%程度少ないことを立証。同様の比較で、自社のOB顧客の健康状態について継続的な調査を行い、健康に与える好影響を実証することに取り組んでいる。こうして集めたエビデンスは、全国の工務店と共有し、工業化住宅に対する優位性を堂々と訴えていきたい。
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