上司と部下の間には、強固な信頼関係の結び付きが生まれます。住宅会社経営層と折り合いがつかずに上司が退社した際、その上司が元部下に「一緒に働こう」と声をかけ、引き抜き行為をするというケースの法律相談も多く寄せられています。従業員にも職業選択の自由がある他方で、10人以上の従業員を引き抜いていく辛辣な引き抜き行為は不法行為を構成する可能性もあり、法律上の論点が生まれてくる事項です。(解説:匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生)
※この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2020年1・2月号/弁護士秋野卓生の法律教室』をデジタル配信用に再編集したものです。
1. 採用コストと育成コスト
従業員を採用し、育成するには、教育コストがかかります。1人の従業員に対して会社がいくらコストを負担しているかと考えると、育て上げた従業員を引き抜く行為は、企業経営者としては許されない行為である、と悔しい思いをすることと思います。
しかし、従業員にも職業選択の自由があり、労働契約を解消することも自由にできます。この従業員の気持ちを保つよう、経営者は従業員と日常から情に厚い付き合いをしていくことが重要です。
2. 在職中の上司による部下の引き抜き行為
在職中に、他の従業員に対して、今いる会社を退職して他社に就職するよう勧誘したり、引き抜いたりする行為について、明確にそれを禁止する法律上の規定はありません。
もっとも、労働契約においては、従業員は、使用者の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務(誠実義務)を負っており、在職中に他の従業員に対する勧誘・引抜き行為を行うことは、誠実義務違反に該当する可能性があります。
判例もあります。ある会社の元従業員が、まだその会社に在職していたころ、チームミーティングなどで部下の従業員に対し「自分は退職して競業会社に移る」と話し、競業会社の説明会を開催するなどして従業員に競業会社に移るように勧誘したという事案。勧誘した元従業員は、元いた会社の従業員に対して、その地位を利用して積極的に競業会社に移るよう勧誘行為を行ったものと認められました。
また、当該行為は・・・・
【残り1200文字】
この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2020年1・2月号/弁護士秋野卓生の法律教室』(2020年1月30日発行)P.66~に掲載しています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。