東日本大震災の発生から11年目のいま、建材設備の供給制約、ウクライナ侵攻によるエネルギー・原発への不安など、当時と現在の状況が重なることに驚いています。
■3.11契機に性能向上を推進
振り返ると、東日本大震災は新建ハウジングにとって大きな転機でした。
新建ハウジングは阪神・淡路大震災の年、バッシングを受けていた木造住宅とその担い手である工務店を応援したいとの思いで創刊し、また私が編集長になったときに「変えよう!ニッポンの家づくり」というパーパス(志)を掲げエコハウスの普及など業界・社会課題に貢献してきたつもりでしたが、東日本大震災の被害を目の当たりにし、メディアとしてもっとできることがあるはずだと考えました。
模索するなかで行き着いた一つの答えが高断熱化をはじめとする住宅・建築物の性能向上の推進で、以降媒体としても、個人としてもその旗振りに努めてきたつもりです。
直近の「脱炭素住宅公開取材」はその象徴的なものですが、Webで貢献することも東日本大震災当時の模索のなかで行き着いた答えの一つでした。
新建ハウジングを購読していない工務店や住宅関連企業の皆さんにも、建材設備の供給状況をはじめ必要な情報をリアルタイムで届けたい―。
そんな思いで、簡易的に立ち上げたサイトで必死にニュースを書き、またブログを綴った記憶があります。
現在はSNS、さらにはオンラインセミナーやスクールなどを通じて、ニュースはもちろん、性能向上をはじめ様々なコンテンツやノウハウをお届けできるようになりました。
■いま取り組みたい2つのこと
新建ハウジングが性能向上推進やWeb発信に力を入れるようになったきっかけとなった東日本大震災。11年たったいま、当時と重なる状況にあるなかで、「変えよう!ニッポンの家づくり」のパーパスに重ね本気で取り組みたいと考えているのが、性能向上リフォーム・リノベーションと業界のトランスフォーメーションの推進です。
・「5方よし」の性能向上リフォーム・リノベーション
性能向上リフォーム・リノベーションは「5方よし」の事業です。
生活者は快適で健康リスクが少ない暮らしを光熱費を抑えながら実現でき、省エネ・脱炭素にも貢献できます。
社会にとっては、脱炭素化への貢献はもちろん、ウクライナ侵攻で経済・安全保障とエネルギーの深い関連が浮き彫りとなるなか、既存建築物の性能向上・再エネ活用は一層重要な課題となっていて、ここにも貢献できます。
また、高齢化が加速するなか社会保障制度を守るうえでも、建築物の性能向上を進め健康リスクを引き下げる必要があります。空き家増や建築廃棄物などの課題にも貢献できます。
業界にとっては、性能向上リフォーム・リノベーションは生活者の暮らし向上と社会課題解決に貢献でき、しかも私たちが「レインボーオーシャン」と呼ぶ見える人には見える潜在的な有望市場で、ここでは技術力と顧客・地域との関係性をもつ工務店にアドバンテージがあります。
生活者、社会、業界、さらには地球と未来にとってベネフィットがある「5方よし」の住生活事業はそう多くありません。
また、最近説かれる「CSV経営(事業活を通して社会課題解決する経営スタイル)」そのものです。新築中心の工務店にとっては、新築の技術を生かして取り組むことで「両利きの経営(事業の深化と探索)」を実現でき、これらは人口減少が加速し新築需要が減少する中でも経営の持続につながります。
・業界のトランスフォーメーション
資材ショックが続き、ウクライナ侵攻でその加速も予測されるなか、業界のトランスフォーメーション(未来を見据えた変革)も大きなテーマです。
資材ショックにひきつけて工務店視点で言えば、まずは価格戦略を見直し、基本的には価値を上げて値上げする。予算に合わない顧客には、たとえば設計の工夫でコンパクト化を提案する。標準化し、さらにはセミオーダー化・規格化し、価格を多層化する。中古住宅+リノベーション、分譲など多角化して予算・客層にアジャストする。
さらには現場を中心に業務の再定義・標準化&DX、パネル化・プレファブ化などを進め、品質を守りながら生産性を高め、顧客満足・従業員満足・利益をバランスする。
中期的には、資材の開発・生産・流通を合理化・DXする。経済振興と危機管理の観点から木材の自給率向上や資材生産の国内回帰を模索する。
挙げればきりがないですが、厳しい状況にあり危機感を共有しやすい今だからこそ、トランスフォーメーションは進めやすいはずです。
■工務店の未来は暗くない
災害や戦争によって住まいと暮らし、そして大切な人を突然奪われた方たちを見ると、住まいと暮らしの大切さ、何気ない日常こそが豊かさであることを改めて感じます。
事業的な視点でここまで書いてきましたが、いま強く思うのはこのことです。
安心して暮らすことができる「巣」を提供する。良い居場所を設えることで良い時間をプロデュースする。性能向上を含め設計施工の力を高めるほど、これらを高いレベルで実現でき、住まい手の人生、幸福な時間に貢献できます。
家づくりはやりがいのある素晴らしい仕事、そして尊い仕事だと改めて思います。
東日本大震災をはじめ災害や戦争への思いを持ちながら、粛々と良い家を増やしていく。工務店はじめ私たち住宅業界ができることの1つです。
また、災害や戦争はまち自体を、まちの経済を、まちのコミュニティや人の関係性を壊してしまうこと、それを再生するのはとても大変だということを、いま改めて感じます。災害や戦争に襲われていないまちにも、人口減少や大資本の進出などによってこれらが壊れかかっている現状が見えます。
工務店はまちにずっと関わっていますが、もっと関われるはずです。コミュニティや関係性をつなぐハブとなり、建築を通してまちの課題を解消しまちを元気にできるポテンシャルを持っているはずです。
いま、多くの若い人たちがローカル&ソーシャルに目を向け、小さな半径からまちを良くしていこう、そのために面白がりながらまちで働き始めています。ここに工務店はジョインできるはずですし、そんな気分の広がりは工務店にとって追い風でもあります。
資材ショックや社会経済の不透明さなど足下はしんどいことも多いですが、まだまだできる貢献、ローカル&ソーシャルに機会はあり、工務店の未来は決して暗くありません。
明るい未来を一緒につくっていけるよう、新建ハウジングは皆さんと併走し続けたいと思っています。(新建ハウジング発行人・三浦祐成)
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