いつも通りに長期優良住宅の申請をしていたはずなのに、実は書類の日付に虚偽があったことが判明。社内で調査したところ、過去3年にさかのぼって同様の虚偽申請が16件もあることがわかり、それらの住宅の認定は取り消しに…。処分の対象となった住宅会社クレスト・ホーム(北九州市)にとっても思いもかけない事件だった。
2022年2月8日に北九州市が発表した経緯によれば、不正が発覚したのは、2021年11月のこと。建て主が市税事務所に税制優遇措置についての申請をした際、長期優良住宅の認定記録がまだ届いていないことがわかった。
本来、長期優良住宅の認定申請は着工前にしなければならない。住宅が完成して登記した後でなければできないはずの税制優遇の手続きを、認定がおりる前に建て主がするのはおかしい。市の建築指導課は、対象の住宅がすでに完成しているのを確認したのちに、クレスト・ホームに事情を聞いた。
2021年10月22日に提出した認定申請書には着工予定日について「2021年10月25日」と記載があったが、実際にはその3か月以上前に着工していたという。同社では、申請手続きの書類作成は二級建築士の資格を持つ社員がひとりで担当しており、日付の不正についてはその社員がおこなったものだった。その理由については不明だという。
建築指導課では、同社に調査を求めるとともに、建築計画概要書の記載履歴なども照合。過去3年にわたって同社の同様の虚偽申請は16件あることがわかった。いずれも申請前に事前着工しており、法令の要件を満たしていないということで、長期優良住宅の認定は取り消しとなった。なお、不正があったのは申請書類の日付だけであり、建物の安全性については問題はないという。
申請書類のダブルチェックが必要
長期優良住宅の認定では、基本的に申請内容をチェックするものの、記載された着工予定日と、実際の着工日を確認することは通常はしない。そのため、建築指導課では日付の虚偽については気づくことができなかった。
またクレスト・ホームでも、社内の打ち合わせ時に申請内容について共有する機会は設けているが、申請する書面の作成は担当社員に一任しており、書面そのものを他部署でチェックする仕組みはなかったという。
同社では問題となった社員を減俸処分に付すとともに、新たに書類作成を担当する社員を雇用。今後は受注案件ごとに営業や設計などの各担当者に加え、上長と社長まで全員が申請書類もチェックする体制にあらためる。
今回、認定取り消しとなった住宅については、2022年10月1日に施行される既存住宅を対象として長期優良住宅の認定を行う「建築行為なし認定」の制度を利用して再申請を行う予定だ。
同社にはこれまで現場管理や施工精度には力を入れてきた自負があるという。その反面、申請関連の書類作成や手続きについては担当者を信頼して任せきりにしていたために、今回のような不正を見逃すことになってしまった。
補助金など各種の申請業務が煩雑化する一方、中小規模の住宅事業者では限られた人員で対応しなくてはならないのが現状だ。現場での施工ミスを防ぐのと同様に、書類作成でも不備のないよう、ダブルチェックする体制を整える必要がありそうだ。
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