ユニットバスの実用化に始まり、お湯が冷めにくい《魔法びん浴槽》、畳のようにやわらかい、ヒヤっとしない、乾きやすい《お掃除ラクラクほ っカラリ床》などで日本のバスルームの進化をリードしてきたTOTO(福岡県北九州市)。なかでも、2018年にフルモデルチェンジしたシステムバスルーム『SYNLA(シンラ)』には、同社のものづくりにかける思いと独自技術の数々が詰まっている。コンセプトは「上質で心休まる穏やかな時間をすごす」。これらを叶えるためにどんな壁を乗り越えたのか、18年間バスルームの開発に携わってきた川原健一さんに話を聞いた。
リラックス&リフレッシュを追求した《楽湯》
2018年のフルモデルチェンジで『シンラ』に初めて標準搭載したのが、浴槽内のお湯を循環させて肩と腰に心地いい刺激を与えて温めを促す《楽湯》だ。
実は、《楽湯》の前身となるアイテムは 2010年発売の単体浴槽『スーパーエクセレントバス』にすでに搭載されている。この際、システムバスルームへの採用も試みたが、在来浴槽向けに開発されたポンプを収めるスペースが確保できず、搭載を断念した経緯がある。「この経験があったため、新シンラのコンセプトをリラックスおよびリフレッシュに決めたとき、2010年時の技術を進化させ、入浴する人の心身を水流と水音で癒すアイテムを標準仕様にしたいと考えたのです」と川原さんは振り返る。
それが《楽湯》であり、大きなチャレンジとなった。
美しい吐水形状にこだわり
特に難しかったのは、浴槽のヘッドレスト部から最大65L/分ものお湯を吐水する《肩楽湯》の技術。「単に首・肩に一定量のお湯を流すだけではなく、水の制御に長けた企業として、切れ目なく美しく広がる吐水形状をどうしても実現したかったため、開発の難易度が大幅に上がった」と明かす。
水は表面張力により丸く集まろうとする力が働くため、落下とともに吐水幅が狭くなる「縮流」や「割れ」といった現象が起きる。戸建て向けシ
ステムバスルームの限られたスペース内で美しい水の流れを実現するのは至難の業だ。
これを解決すべく、吐水部の内部形状を工夫。コンピュータによるシミュレーションを何度も繰り返し、1つの吐水口から噴き出したお湯がわずか5mmの短い距離で整流されて450mm幅の滝状に変わり、着水時には530mm幅に美しく広がる方法を編み出した。
毎分135Lの大流量
もう1つ、《肩楽湯》と《腰楽湯》を同時に使える大流量にもこだわった。従来ポンプはサイズが大きく、かつ流量不足だったため、高性能の小型ポンプを新たに開発。加えて、少量の水を勢いよく噴出させ、周囲の水を巻き込みながら大流量をつくるTOTOパブリック用トイレにも採用しているジェットポンプ技術を組み合わせることで、流量を従来ポンプの約1.5倍に増やすことに成功。これにより、肩と腰の2か所同時に、計135L/分のお湯を同時に流すことが可能になった。ちなみに《腰楽湯》には、水の力だけでランダムな旋回流を生み出し、広範囲に変化にとんだ刺激を与えるジェットバスの特許技術《ハイドロハンズ》を採用した。
商品化にあたり、川原さんらが最も重視したのは実際の「浴び心地」だ。複数の社員に《楽湯》を体感してもらい、彼らが一番心地いいと答えた流速域を割り出して完成品に組み込んだ。
発売後のお客様からの声として、「シャワー浴ばかりだったが楽湯が気持ちよくて入浴時間が伸びた」「車よりも浴室にお金をかけた方が暮らし方が変わると知った」など高い評価が寄せられている。
クリーンを追求した《床ワイパー洗浄》
浴室のカウンター下に設けた回転式ノズルが水を撒いて床をきれいにする《床ワイパー洗浄》も、2018年発売の『シンラ』から搭載されるようになったTOTO独自のクリーン技術だ。
開発チームはまず、浴室の床の汚れには大きく「黒カビ」と「ピンク汚れ」の2種類があり、このうち黒カビは人の角質・皮脂を栄養源に増えていくことを突き止めた。しかも、1回の入浴で1人あたり1000万枚もの角質が剥がれ落ち、一部はシャワーなどで流れるものの、入浴後の床や排水口には多くの角質が残存していることを特定。「黒カビ対策の唯一の手段は、増殖する前に元を断つこと。つまり、残存角質を日常的に洗い流す仕掛けがあれば床のお手入れの手間を減らせると考えたのです」。
角質を洗い流してから除菌
完成までの道のりは長かったという。単に水をまいただけでは角質が十分に流れない場所、水の押し戻しによって角質が溜まる場所が必ず生まれてしまうからだ。
これを解消するために、ノズルの形状と動き、散水の量とスピードを徹底的に研究。まず手前の壁に水を当ててカウンター下の角質を追い出してからノズルの回転を開始して床の端から端までゆっくりと板状に散水し、一旦止まって逆回転させることで排水口まわりに溜まる角質を洗い流す―どんな広さの浴室でも同様の効果が出るよう、この動きや散布回数にたどり着いた。
ピンク汚れは、水道水に微量に含まれる酵母の一種「メチロバクテリウム」が原因であるため、最後の仕上げにTOTO独自のクリーン技術《きれい除菌水》をノズルから放出して除菌する。
地道な作業で効果を確認
実験場では、社員による試浴に加え、人の角質に近いというカツオ節を細かく砕いて着色し「擬似汚れ」に見立ててクリーン効果を何度も確認。最後は実験場を飛び出し、必ず一般家庭の浴室を数カ月間使って検証する。これもTOTOが決して妥協することがないこだわりだ。「特にカビは、パンや味噌の味が各地・各店で違うように、その住宅の立地環境や浴室の使用状況によって発生の仕方が異なるため、時間がかかる地道な作業ですが、フィールドテストで確かめることは商品を世に出すにあたり必要なことです」。
クリーン効果はどれほどのものか。「一概には言えませんが、床ワイパー洗浄を入浴後稼働するだけで、床まわりのきれいを長持ちさせることができます。多くのお客様から『床掃除が楽になった』という声をいただき、家事負担を軽減したいニーズにマッチしており、需要の大きさを改めて実感しているところです」。
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